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リスクと責任・損失

企業責任は「法的責任」と「社会的責任」に大別できます。理数対応の面から、企業における事件・事故に対する企業責任の概要とその損失についてまとめてみましょう。

『法的責任について』

法的責任は「民事責任」「刑事責任」および行政責任の様態に分ける事ができます。

(1)民事責任
民事責任としては、謝罪広告や賠償責任があります。諸々の企業民事責任の中で、大きい損失につながるもっとも注意しなければならない責任は賠償責任でしょう。
賠償責任の企業に与える損失は、「他人の財産の侵害に対する損害賠償」「人身の被害に対する損害賠償」「諸権利の侵害に対する損害賠償」などの結果として生じる“法律上の責任”に基づいて発生する損失になります。賠償責任によって発生する諸々の損失は、企業の財産・収益の喪失につながりますが、場合によって企業経営の根幹を揺るがすことにもなりかねません。

“他人の法益(法律上の権利・利益)を侵害したものは、それによって生じた損害を賠償しなければならない”ことは民法の原則です。そしてこの場合、債務不履行など契約違反に基づく損害賠償責任と言った「契約上の形」をとる場合と、故意・過失による他人の権利の侵害に基づく損害賠償と言った「不法行為の形(民法709条)」をとる場合が有ります。そして、これらの賠償責任は、契約当事者、権利の被侵害者、製品あるいはサービスを利用する顧客・消費者、市民団体あるいは一般大衆、従業員、株主、行政機関などから課せられる責任です。

このような賠償責任の中で、とくに企業にとってリスク管理上重要なものが以下にあたります。

・特許権侵害賠償責任
特許権者が特許権侵害品を販売しているメーカー・販売者に対して課す責任です。賠償金額が莫大で、場合によっては栄品の販売自体が停止される可能性もあります。
事故の開発製品に関連する他人の特許・技術情報などを製品の開発初期段階から収集・調査・分析するなど、他人の権利に対するリスク管理に万全を期す必要があります。

・製造物責任
製品の利用者(消費者)が、製品の欠陥に起因する損害に関して、製造者、販売者などに対して課す責任です。場合によって、製品の利用者側が集団で損害賠償訴訟を提起する事もあり、企業自体の倒産を招く原因にもなりえます。
製品のっ開発段階から製品化まで、安全性など“設計上”の注意を払い、生産にあたっては品質管理など“製造上”の注意を払い、また販売にあたっては取扱説明書、使用上の注意、警告ラベル、パンフレットなど製品の“表示上”の配慮を十分にすべく、日常企業活動におけるリスク管理を怠ってはいけません。

・環境汚染責任
工場排水の汚染、産業廃棄物の不法投棄など、環境の麺から行政当局が課す責任です。

・第三者賠償責任
工場の爆発、工場汚水の排出、毒性のあるガスの発生により、地域住民あるいは市民が被害を被った場合に課す賠償責任です。

・労働災害責任
従業員が企業に対して課す責任です。従業員の業務執行中に、従業員が被った身体的傷害、過労死などに対する企業の責任であり、場合によっては損害賠償訴訟へと発展する事もあります。

・経営者(取締役)責任
法人としての企業責任ではなく、取締役と言う地位に基づく個人に対する責任です。経営者が企業経営に関連して、善管注意業務違反、忠実義務違反、あるいは法令違反、違法行為などにより会社に与えた損失・損害に対して、株主などが取締役に対して課す責任です。この責任の追及は、現在では株主代表訴訟によって容易に行われるようになりました。
現代の社会、経済の中で、人の価値観も変化しており、賠償に対する意識が高まっている社会的・文化的なリスクのある状況の中で、賠償責任による損失に対する認識は企業にとって不可欠になっています。

(2)刑事責任

刑事責任は、企業における個人に対する罰金、禁錮、懲役などの刑事処罰によって現れます。このような刑事責任は、個人の刑事責任を問われての身柄拘束という企業の「人的損失」に、さらには個人に対する経済的負担あるいは社会的名誉の問題にも発展します。
また、経営者の場合には、経営者への責任追及として、株主代表訴訟にもつながります。とくに「犯罪型スキャンダル」の場合には、企業内における金銭的・財産的損失以上に、企業の外に対するイメージ面での損失・影響が大きくなります。

①法人の犯罪能力
犯罪能力とは、刑法典上の構成要件の行為の主体となりうる能力、つまり犯罪行為能力のことです。法律上の「人」は、一般に自然人と法人を指しますが、刑法上行為の主体としての「者」が法人を含むかについては「否定説」「肯定説」「行政刑法についてのみ肯定すべきとする折衷説」がありますが、「肯定説-法人にも犯罪能力あり-」とするのは通説のようです。
その根拠となるポイントは、以下にあたります。

・法人も機関の意思に基づいて、機関として行動するから行為能力を有している。
・法人の意思の基づく行為が認められる以上、法人を非難することが可能であり、刑事責任を負担する能力を有する。
・法人に適した財産刑、あるいは行政処分としての法人の解散。営業停止などの制裁を加える事によって、法人の違法行為の責任を追及し、それを防止するために有効な処罰を設けることが可能である。
・法人自体を処罰の対象とすることは、法人犯罪を抑止するうえで必要である。

②現行法上の法人処罰規定
法人の犯罪能力は肯定されます。しかし、法人を処罰する場合には、とくに特例法で法人処罰規定をおいているところから、現行法上は、行政取締を目的とした刑罰法規に限って、法人の犯罪能力を認めています。

③法人処罰の形式
法人処罰の形式は、“自然人である従業者の違反行為”について、以下のものがあります。

・その業務主である“法人”のみを処罰する「代罰規定」
・“当該従業者本人”を処罰するとともに、その業務主である“法人”を合わせて処罰する「両罰規定」
・“当該従業者本人”を罰するほか、その業務主たる“法人”および“法人の代表者・中間管理職”をも処罰する「三罰規定」

これらの法人処罰規定は、現在460ほどあると言われていますが、その大半は両罰規定です。なお、両罰規定における法人の責任の根拠については“法人の期間ないし従業者が違反行為をしたときは、その法人は、上業者の違反を防止しなかった選任・監督上の過失につき、みずからの過失として責任を負担するのである”と言われています。

昨今、法人の犯罪と法人に対する処罰の問題が大きく論議されています。それは、現代の複雑化した社会構造の中で、個人の活動をはるかに超える法人の活動が行われ、「郊外犯罪・独禁法犯罪」など行政・経済取締法違反の他、「詐欺・背任・横領・贈賄」などと言った刑法典上の犯罪にまで法人の違法な活動・行動が顕著になっているのに、その抑止について両罰規定はほとんど無意味になってきていると言われ、それに対応するためには“法人自体の活動と評価できる期間内市従業者の違反行為を、法人自体の行為として、処罰できるようにすること以外にはない”とされ、法人犯罪の抑止をするためには、立法的対応が必要であると言われています。

(3)行政責任
行政責任は、許認可の取り消し、行政処分・命令、行政指導、立ち入り検査・調査などとなって現れます。
これらの行政責任は、結果として生産や営業の中断、休業、顧客の離反などにつながり、行政命令に対応するために支出する経費の増加にもつながっていきます。

『社会的責任について』

企業は一種の公的存在である以上、社会的責任を負うのは当然です。とくに、会社犯罪型スキャンダル、反社会型スキャンダルは、企業に対する社会的責任として、世論の高まり、製品ボイコット、売上げ低下、企業のイメージダウンといった影響が考えられます。
つまり、これらのスキャンダルがいったん発生してしまうと、テレビや雑誌、インターネット上で大きな波紋を呼び、それによって被る損害は、売り上げダウンという財産的な損失だけではなく、企業のイメージダウンにつながり、長期的な売り上げ不振、ひいては“業界全体のイメージダウン”をももたらすことが考えられます。

そして、このような会社のイメージは、従業員の士気・モラルの低下を招き、業務効率の悪化、取引の中止、社会的制裁、社会的評価・信用の低下をもたらし、経営者の交代あるいは経営権の交代にまで及ぶことも考えられるのです。
このような精神的なイメージ面でのダウンは、企業に対して金銭に代えられない大きい損失につながりますし、その対応いかんによって影響度合いは想像以上に大きくなると言うことを肝に銘じておきましょう。

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