Home / 法務の基礎 / 企業戦略と法務 / 人事管理と法務の基礎

人事管理と法務の基礎

人事管理は創造的な経営活動の一部ですが、その戦略は従来のトレンドをいわば非連続的に飛躍させることを狙ったものといえましょう。それだけに、人事戦略の具体的な内容を一般的に明示することはできません。いくつかの例を示し、各企業における具体的な戦略立案の参考に供するにとどまります。
以下においては、日本の経済社会が国際化するにつれて伝統的な雇用慣行が変容を迫られているという視点から、いくつかのテーマを選択します。

(1)人事制度構築への従業員の参加
企業の規模が拡大するにつれて、人事管理は単に個人的な知識・スキルに依存するだけでは不十分となります。そこでは一定の制度を構築して従業員の全体としての活動に統一性を持たせることが不可欠となります。
そして、この制度をどのように組織として動かしていくかに対する現代的な着眼点の一つが、人事制度の構築に制度の適用を受ける従業員自身を参加させることではないでしょうか。

過去において、法的には財産権の利用・処分の自由を根拠として、人事権は経営の専決事項であると考えられ、人事制度は経営側が一方的に設定していました。今でも基本的にはその理論は崩れていません。しかし、その理論を文字通り実践することが今日の人事戦略に適合しているのかは疑問でしょう。むしろ、人事制度の構築には従業員の参加を求め、従業員の知識・知恵を活用するだけではなく、構築された制度の自主的な運用を確保することが望ましいのではないかと指摘されます。
しかし、気を付けたい点としては、経営側が消極的に従業員の参加を許容するのではなく、法律的な制度を活用したり自主的に、企業理念と心理学的・社会学的な研究成果の活用とを追求しようとすることが大切になってくるだろうという事です。

もともと、人事制度は広い意味で雇用条件に係わるものであり、雇用条件は契約当事者の合意で定める性質のものです。すべての条件を合意することは現実として不可能であるから、いわゆる「不完全契約」としてかなりの条件がブランクとされており、そのブランクを経営側が一方的に埋めるというのが従来の方法でした。つまり、人事制度の構築に従業員を参加させるのは法的には新しい理論ではないと言えます。

(2)従業員の正当な差別・不当な差別
従業員を一口に人材として表現したとしても、実際には個々の人材の特性は多様です。企業が必要とするのは頭数だけではなく、企業に貢献する人材です。しかし、一方で従業員は生きた人間であり、持って生れた個性・才能には個人差があるばかりでなく、後天的な学習・訓練・生活環境による相違、年齢を加えるにつれての変化があります。企業としては、このような個々の従業員の特性と自社のニーズの適正なマッチングを図らなくてはいけません。

日本の雇用慣行は従来いわゆる終身雇用と年功序列を書くとした安定雇用が特徴でした。過去の時代においてはそれが合理的であるものとされてきましたが、今後とも合理的であり続けるかは疑問でしょう。これを修正する必要があるのであれば、どのような連鎖反応を予想し、どのような対応措置を取るべきでしょうか。
基本的には、企業の必要とする業務の明確化とその内容の分析を前提とし、従業員の特性を明らかにして、従業員を個別に差別することでしょう。それぞれの長所・短所を認識し、処遇する事です。これによって、いわゆる適材適所を企業の内部市場だけではなく広く労働市場に求める事も視野に入ってきます。

企業がこのような人事戦略をとるとすれば、従業員の新規採用のあり方、職務配置・昇格・昇給・訓練のあり方、退職・解雇のあり方などにも影響を与えるでしょう。そして同時に従業員にもインパクトを与え、しゃかいてきな問題ともなりえます。
したがって、従業員差別化の本格的な導入には慎重な判断が必要となるでしょうが、当面の問題は、何を基準にしてどのような仕組みで判定するか、にあります。

(3)人材の流れの管理
企業の観点からは、必要な人材を必要な時に、必要な数量だけ確保することが理想でしょう。しかし、人材は特別な経営資源であって、企業の都合だけで数量の調節を自由に行うことは困難です。現代社会では大多数の国民は企業の従業員として生活の糧を手に入れるほかはなく。雇用の安定は重大な関心事となります。
一方で、企業は適正な雇用レベルを維持しなければ経営自体が脅かされる事になります。このバランスをどのようにして取っていけばいいのか、数量のバランスは投入量と排出量によって調節されますが、現実問題として投入は比較的容易で、排出には厳格な法的制約があります。つまり、最初に排出の実態を把握しなくてはいけません。

解雇が人員調節の手段として用いにくい場合、期間の定めのある雇用や従業員の自発的退職、採用人員の流動化を図る必要があります。
日本では、人員の調節が困難なことから、在籍人員を低く設定し繁忙期には超過勤務によって仕事をこなそうとする傾向が見られますが、このような慣行には金銭的メリットとともに従業員の精神的なデメリットや労働基準法違反の恐れも伴うことを理解しましょう。

(4)報酬システムの見直し
報酬が人事管理上の重要なテーマであることは言うまでもありません。基本的に報酬は企業にとってのコストであり、従業員にとっては生活の糧となります。さらに、時としては経営活動を促進する手段(インセンティブ・ボーナスなど)としても機能し、従業員にとっては精神的な満足度の基準にもなります。
法律的には賃金は金額の側面と支払方法の側面とで規制されています。前者は最低賃金の制度、後者は労働基準法による賃金支払いの保護です。

賃金に対する企業・従業員の関心は、第一に初任給、第二に賃金の増額方式でしょう。初任給は労働市場の競争水準に強く影響され、特定の企業での将来の昇給パターンに期待して比較的低い市場の初任給を受け入れる人もいますが、一般的には初任給に不満があると他の企業への就職を選ぶ傾向があります。
したがって初任給は「他社と競争に耐える金額」という以上の配慮は必要ないでしょう。経営上の関心としては昇給方式に向けられます。
昇給パターンは賃金の内部構成に関係します。つまり、賃金は何らかの基準で増加する対象になる部分と、固定的な部分とから構成される事が多くなっています。
日本では、家族手当・住宅手当などの諸手当は昇給の対象とならず、基本給と呼ばれる部分のみが昇給対象になります。昇給は原則として勤務年数にスライドし、人事考課によって標準のプラス・マイナスが若干加味されます。いわゆるベースアップと呼ばれる昇給は従業員個人の特性とは関係なく、基本給部分が引き上げられるものです。

人事戦略としての関心は、このような賃金構成、昇給パターンが果たして現在および将来の企業経営に貢献するのだろうかという点でしょう。もし日本の労働市場が流動化し、従業員が気軽に、頻繁に就職先を変えることが通常の形態となれば、賃金は常に市場水準にさらされ、昇給パターンはあまり問題とならないかもしれません。しかし、当分の間そのような流動化は予想しにくいでしょう。
そうすると、賃金のどの部分を、どのような基準で、どれだけ引き上げる対象とするかが泊まれることになります。

企業は「手当」や「福利費」を支払うかどうか、自由に選択できます。従業員福祉のため、または他企業との競争のために、しかるべく決定すればいいでしょう。これらは従業員へのインセンティブとしてはほとんど機能しないでしょう。本給部分の引き上げを何にリンクするかが問題となります。
勤続年数のみをリンクさせるのはもはや時代遅れとも言えます。そこで、「職務給」「職能資格給」「業績給」などの概念が導入される事になります。大事なのは、この問題は法規制とは無関係で企業の自由裁量の分野であるという事です。
法律とのかかわりで指摘できるのは、いわゆる「年俸制」と年棒の対象となった従業員の割増賃金規制との関係です。年俸の金額をどのように決定するかは自由ですが、年俸の対象者が労働基準法の管理職に該当しない場合には時間外・休日労働の管理をし、割増賃金を支払う必要があります。年俸制を管理者だけに適用している場合、このような法律問題は発生しません。

Check Also

企業における事件・事故のパターン

リスクを回避・除去できずに発生 …

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です