海外進出は市場の多角化に類似した側面を持ちます。従来販売する製品の市場として活用してこなかった地域を市場とし、そこで製造活動を行います。海外市場は国内と異なった条件を備えている事が多いでしょうから、その市場にマッチした製品を開発・製造する必要が出てきますので、その意味では商品の多角化にもつながります。
最近の日本では、海外における生産活動はその地域での販売を必ずしも目的とせず、低コスト生産を基礎とした輸出拠点の確保にある例も少なくありません。輸出の仕向地は日本事態であることもあります。
海外進出と法務との関係は、国内事業だけの場合には考慮する必要がなかった法律問題が発生することでしょう。基本的な特徴は、企業活動が国境を越える事によって国内法だけでなく外国法の可能性が発生することですが、メインとして海外進出との関連で適用される国内法もあります。
(1)製品輸出
海外進出の最も古典的な形態は製品の輸出です。しかし輸出は販売の1つの姿であるから、販売促進のためにはそれなりの企業努力が欠かせません。
輸出の商談がまとまった場合に、すぐに発生する問題は販売代金の回収確保でしょう。同時に輸送途中の商談の保全あるいは滅失から発生するかもしれない損害の予防、輸送方法の確保も懸念材料となります。このような問題に対応するためには、伝統的に輸出信用状・輸出保険・海上輸送の制度が確立し、その内容は国際的に採用されているインコタームズや契約約款などで広く統一されています。
輸出の前提となる商品の売買契約は、国際私法のルールに配慮した上で個別に交渉・合意することになります。準拠法に関連して980年に採択され1988年発効した「国際物品売買契約に関する国連条約」の存在に留意したいとも思います。この条約には米国・中国・オーストラリア・カナダなど34か国が加盟していますが日本は未加入となっています。
ただし、この条約は「営業所が異なる国にある当事者間の物品売買契約」について適用されるので、日本企業の営業所が締約国の国内にあれば日本は加盟していなくても適用される可能性があります。
製品輸出については、日本の輸出規制法規、輸入国の関税、検疫、品目・数量規制、ダンピング規制などの制約がありますが、それには個別対処するしかないでしょう。
(2)国際的な司法関係に対する法律の適用
海外進出は日本企業の外国における事業活動であるため、日本企業は日本だけでなく外国の諸々の法律規制の対象となります。国家は国際法のルールに従って主権国家としてその領土内、場合によっては領土外の人間活動を法律に寄生することができます。その違反に対しては国際法の許す範囲内で強制的な措置をとることができます。
・強制的な措置は通常、裁判という手続きを通じて実施されます。裁判は裁判所という国家機関による国家権力の行使ですが、その手続きならびに判断基準は法律で定められているのが現代社会の特徴です。裁判所はその所属する国の法律を適用することは言うまでもありません。
注目すべき現象は、今日の国際社会においては一定の国際的な司法関係については一定の「準拠法選択」という理論プロセスを経て特定の場合には裁判所は外国の法律を適用せよという法律体系が採用されており、これが「国際私法」です。
国際私法といっても国際法とは異なり、特定の国家が独自に制定する国内法である事に注意しなくてはいけません。
・国際的な司法関係で紛争が発生した場合には、紛争当事者は話し合いで問題を解決しようと努力することが予想されますが、最終的には裁判に訴えるとします。どこの裁判所に訴えるかの選択には実際的・法律的な諸々の要素が検討されなければなりませんが、最終的には訴えを提起した裁判所がその訴訟を受理するかどうかが問題となります。それぞれの国は、独自の判断でどのような訴訟を受理できるかを定めています。これを「国際裁判管轄」と呼びます。
裁判管轄は各国が独自に定めているから国ごとに異なる可能性があり、事実としてかなり多岐にわたっています。したがってここで一般的な原則を述べることは実際上不可能でしょう。海外進出する企業としては個別に調査するほかありません。とくに関係の深い進出先の国についてはあらかじめ調査しておくといいでしょう。
・訴訟は訴訟を受理した裁判所の所属する国の法律に従って開始・進行します。一方、紛争の権利義務関係の判断は必ずしもその国の法律によるものではありません。その国の国際私法が介入するわけです。
国際私法は一定の法律関係には外国の法律の適用を支持することができます。したがって、どの国で訴訟を行うかによって、同一の法律関係であっても異なった国の法律が適用される事になるかもしれません。この意味でも、どこの国に訴訟を提起するかは重大な問題です。管轄権の場合と同様、国際私法の一般原則を述べることは実際問題として不可能でしょう。
・訴訟は判決によって終了します。上訴が許される場合には上訴すれば上訴審の判決で、上訴しなければ上訴期間の経過によって判決は確定します。判決の場合によっては磯野被告が自主的に判決名用を履行すれば紛争は終結します。しかし、自主的に履行しない場合には勝訴の原告は現実的履行の強制を求めなければなりません。ここでも裁判所が関与します。
履行の強制を求めても、損害賠償などのように結局は被告の財産を目当てにする場合には、被告が十分な財産を持っていなければ勝訴判決も絵に描いた餅となってしまいます。敗訴の被告が別の国には財産を持っているが、裁判の行われた国には持っていないような場合にも同様です。そのため、国によっては「外国判決の承認・執行」という制度を採用してきます。