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企業の成長と法務

企業の多角化は、活動する市場の多角化と、提供する商品の多角化という2つの面から考える事ができます。多角化の実施方法としては、独自の力による多角化と、既存第三者と協力・共同する形態とが考えられるでしょう。独自の力による多角化は企業の成長・生き残りのために必要な自然な活動であり、独自の経営資源の投入によりその成果とリスクを独自に享有し負担します。第三者との協力・共同を行えば経営資源の調達が容易になり、リスク負担もそれだけ軽減されますが、成果も第三者に配分しなくてはいけません。多角化を目指す企業としては、このような四つの要素の組み合わせの中から最も望ましい方向を選択する事になります。

独自の力による多角化には、戦略との関係では特別な法律問題は比較的少ないでしょう。個々の経営施策が法律上度のように評価されるかを日常的な法務として検討するにすぎないでしょう。
これに反して、第三者との協力・共同に関連しては戦略的な法律問題が伴うことが多くなっています。これを考察してみましょう。

多角化のためには、当然ながらヒト・モノ・カネ・情報という経営資源を必要とします。このような資源を独自の責任とリスクで調達することは独自の力による多角化に他なりません。一方、このような資源の調達にあたって第三者と責任・リスクを分かち合うことがここでいう多角化の形態です。法律的には「契約」のシステムが活用されます。

(1)株式会社
そもそも「会社」という制度が考え出されたのも基本的には経営資源を第三者から調達することを促進するためです。個人企業の立場から見れば、事業を会社組織に転換することは多角化への動きです。また、株式を公開していない会社がその株式を証券市場に上場することも基本的には資本調達を狙ったものであり、多角化への基礎作りともなります。
その見返りとして、会社は利益を株主に配当しなくてはいけません。その意味で「会社」はすぐれて戦略的な法律制度を提供していると言えるでしょう。

会社は個人だけではなく法人も設立当事者となる事ができます。この側面に着目すれば、複数の会社が協同して特定の目的のために別個の会社を設立することが考えられ、現実にもその例は多いでしょう。これは「合弁会社」です。
また、会社は既存の自社活動の一部を分離する形で、あるいは新しい事業を開始する目的で、自社が全額を出資する子会社を設立する事があります。この場合には多角化とは関連しますが、経営資源の調達は独自に行われます。このような子会社設立の狙いは、企業の内部コントロールにあることが多いようです。

(2)組合
共同事業の個店的な形態としては「組合」があります。ここでいう「組合」は、「組合契約ハ各当事者カ出資ヲ為シテ共同ノ事業ヲ営ムコトヲ約スルニ因リテ其ノ効力ヲ生ス(民法667条1項)」る契約の形態であり、特別な法律に基づく組合とは別物であることに注意を要します。組合は会社と異なり法人格は持ちませんが、複数の個人が資本・労働力を出し合い、利益と損失とを分かち合う方式です。
現在では弁護士事務所などで多く活用されているのが、組合契約の締結は個人が前提とされているから企業活動の観点からはその社会的作用はあまり大きくないないかもしれません。複数の建設会社が協同して特定の建設工事を完成させる形態をとる例も見られます。

(3)合弁会社
企業が持っている経営資源には量的に限度があるだけではなく、その内容に特徴があるのが一般的です。たとえば、資金は潤沢であるが技術に乏しい、製造面の情報は多いが販売力に弱い、などです。それぞれの弱点をカバーするための方策として、相互補完関係にある複数の企業による合弁会社の設立があります。
複数の企業が資金を出資し合って会社を設立し、その会社に経営管理上の技術・能力、資本金以上の資金、研究開発・製造上の技術、販売ネットワークなどを株主となった企業が提供するのです。そこから得られる利益は出資比率によって分配されます。合弁当事者は合弁会社の成功に共通の利害を持つため、それぞれが持つ経営資源を合弁会社の中にプールすることで市場の、商品のまたは両方の多角化を実現することができます。合弁方式は特に国際的な多角化の達成のために利用される事が多くなります。

合弁方式には利点も多いが、そのぶん難点も多くあります。合弁会社を成功させるためには発足当初の経営資源の適切な組み合わせが不可欠ですが、同時に合弁方式の難点をはじめから予測し、それを克服する仕組みを築いておくことが大切になります。
以下に合弁方式に通常つきまとう難点を指摘し、対策案を検討してみましょう。

・合弁の当事者
合弁会社を子とすれば、当事者は両親です。相手方としてだれを選ぶかが非常に重要となります。自社に欠けている経営資源を保管してくれる相手であることは当然に要求されるでしょう。
例えば、自社にない技術を持っている企業、合弁会社の継続的な成功に貢献する意思と能力を持っている企業です。年月が経過するにつれて当事者の意思・能力は変化することが予想され、場合によっては一方の当事者が全く新しい第三者に吸収あれることすら稀ではありません。
そして、当事者童子の経営方針が相当に一致し、長期的な観点から協力することを惜しまない相手であることが要求されます。ようは、合弁会社はいったん設立すると、途中で解消するのは極めて難しいという事です。

・出資比率
合弁会社は株式会社の形態を取ることが普通です。当事者間の出資比率は株式会社の法律原則に従って、どちらが経営の主導権を持つかに係わるでしょう。今日の会社法では株主の直接の経営参加は限定されていますが、合弁会社の場合には出資比率は経営主導権の精神的な所在を示し、会社定款や会社法に定める株主権だけではなく日常経営にあたっての意思決定の仕組みに影響を及ぼすでしょう。典型的な出資比率は50:50や51:49、実質多数:実質少数(70:30なそ)の3つのパターンに分けられます。
折半出資は平等である反面、経営上の意思決定に平行線をもたらす危険もあります。最後のケースで言えば、合弁会社の経営を一方に委ねる場合にとられる策でしょう。

いずれにしても、合弁会社の経営は会社法の一般原則に従うことは困難であり、会社設立とともに株主間契約を締結して合弁会社の経営方針を事前に調節しておくことが必要であり、通常もそのような契約が締結されます。その契約には、多数の関係事項とともに合弁会社の取締役の選任や経営上の重要事項の決定方式などに定められる音が多くなります。
ただし、契約するわけではなく会社定款にできるだけ両者の合字事項を記載する方式も見られます。

・経営資源提供の対価
合弁会社には親会社から特定の経営資源が提供される事が予定されています。主には技術や資金といったものでしょう。合弁会社の利益は持ち株比率による配当の支払いという形で親会社に還元されるのですから、合弁会社に提供される資源が両親会社の完全な出資比率スライドであれば、無償でも構わないのです。しかし、経営資源の提供がそのような比率でなされる事は実際には少ないでしょう。したがって、資源の提供には適正は対価が伴うことになります。
適正な対価の決定は親会社の力関係に大きく影響されるでしょう。合弁会社が追加資金を必要とする時には、両親会社が出資比率に従って資金を提供することは考えやすいですが、親会社自体の財産状態によっては簡単ではないかもしれません。その場合にもやはり適正な対価が必要となります。

・親会社と合弁会社の取引関係
合弁会社が必要とする設備・原材料・エネルギーなどをすべて一般の市場から購入し、その商品は全て一般市場に販売するのであれば、親会社としても合弁会社の購買活動は最低のコストでなされ、その販売活動は最高の価格でなされることに異論はありません。しかし、多くの場合、合弁会社は原材料などを親会社から購入し、また商品を親会社に販売する仕組みを取ることがあります。そのような場合には、購入・販売の価格をどのように設定するかが親会社の利害に大きくかかわってきます。とくに親会社の一方だけがこのような購入・販売の関係にあるときは、他方の親会社は無関心で入れません。価格設定の如何によっては合弁会社の利益はゼロで、そのあげるべき利益を全て親会社に吸収されてしまう可能性があるのですから。
このような紛争の勃発を防ぐためにも、合弁会社設立の当初に、契約によってしかるべく対処をしておかなくてはいけません。

・合弁関係の解消
合弁会社の存続期間を当初から一定期間に定める例もあります。そのような場合には、期間満了にあたって当事者はどのような行動を取るのか事前に合意されているでしょう。
しかし一般には会社は永続的な存続を想定しているでしょう。それにもかかわらず当事者は合弁関係の家御続を希望しないようになることはあり得ます。事実、合弁関係が解消される例は少なくありません。合弁関係の解消を考える理由は様々ですが、合弁会社の将来性が全く見込めなくなった時、当事者の一方が合弁会社を支援する能力を失った時、合弁会社の存在が当事者の一方の事業に支障を与えるようになった時、当事者の利害が衝突するようになった時、などが挙げられます。

このような場合、合弁会社を解散することが考えられますが、破産の場合はともかくとして、活動中の企業を解散することは不経済となる事が多いでしょう。その場合に考えられる方法としては、解消を希望する当事者の持ち株の売却です。ここで問題となるのは売却先をだれにするのか、売却価格をどうするのか、でしょう。会社法には営業譲渡などに反対する株主に対しては株式買い取り請求権を与え、価格の決定方法を定め必ずしも株式買い取り請求権が発生する事由とは連動しません。難しい問題ですが、合弁契約にしかるべき定めをしておかなくてはいけません。そのような定めがなければ、法的な紛争が発生することは防止できないでしょう。

・秘密漏えい防止
親会社は合弁会社に経営資源を提供しますが、その中には少なからず技術情報鵜・ノウハウといったものが含まれます。それはもちろん、合弁会社の身が使用するものと想定されていますから、他方の親会社が利用する事は原則禁じられています。しかし、親会社と子会社である合弁会社との関係は密接であるし、密接でなくてはいけません。
とくに、合弁関係が解消された後では、他方の親会社走り得た情報を活用したいと考える可能性があります。これをどのようにコントロールするかは非常に難しい問題でしょう。

(4)合併・買収
すでに存立する企業を自社と合併し、またはその企業を買収することは、多角化のためには最も手っ取り早い方法でしょう。合併の場合には資金も必要なく、自社に欠けており他社が持っている経営資源を素早く獲得することができます。

・経営戦略に係わる法務としては合併問題は重大です。商法と独禁法の観点から専門的異検討すべきです。また、商法には外国会社との合併の規定がないため、合併は国内企業同士だけでの問題です。
・買収と呼ばれる形態には、他企業の株式の買取り、営業の譲渡、他企業が持っている資産が含まれます。特徴ある経営資源と金銭の交換といえましょう。
・不動産や権利は元より、のれんも含まれ、あらに営業上の債務も含まれます。企業組織の全部である必要はなく、ひとつの企業内でそれ自体独立して営業を継続できる組織を持っている部分であり、切り離して譲り受けることができます。
営業を譲渡した者は、一定の地域・年限内で同種の営業を営むことはできません。会社の営業譲渡には商法245条による株主総会の特別決議が要求され、独立禁止法第16条の制約を受けます。営業の譲受も部分的に合併と類似した効果を持ちます。

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