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企業の海外進出と法務

企業が外国で活動する場合には、その国の法律に従わなくてはいけません。従うべき法律の範囲はその国の法律体系全体であり、それをあらかじめすべて承知しておくことは不可能でしょう。自国の法体系すら知り尽くしている事は有りません。
したがって、特に関心のある国の関心のある分野の法律を研究しておくことは別として、一般には必要に応じて相談できる内外の専門家のネットワークを開発しておくことが大切でしょう。
海外進出も含めて、新しいプロジェクトにとりかかる際には、いわゆる「フィージビリティ・スタディ」を行うことが一般的です。その調査には、対象国の法律制度をも含めます。
何を調査するかを含めて、専門家へ相談する必要があるでしょう。日本では「外国弁護士による法律事務の取扱に関する特別措置法」が制定され、外国で弁護士の資格を取得した法律家に日本国内で一定の法律業務を行うことを認めています。このような法律家を「外国法事務弁護士」と呼びますが、その数はまだ少ないようです。

進出先国と事業分野とが特定されれば、文献による調査もある程度可能でしょう。外国法の一般的な調査文献としてはアメリカのMARTIN-DALE-HUBBELL LAW DIGEST:UNITED STATES LAW DIGEST/INTERNATIONAL LAW DIGESTがあります。この文献は、アメリカの各州別の法律の概要のほか、世界の60ヵ国あまりの国について法律体系の要点を記述しています。
具体的な国の法律については個別に調査しなくてはいけませんが、企業の海外進出を念頭に置いて調査するひとつのモデルとして、アメリカの法律について解説しましょう。世界の国々は法系統によっていくつかのグループに分かれ法律の整備の程度も異なります。法的な紛争解決の仕組みも裁判よりむしろ行政の影響力が強いところもありますが、日本との関係が最も緊密であることからも、アメリカを例とするのがいいでしょう。

・連邦制
アメリカの法律を考える場合、アメリカは連邦国家であることに留意しておかなくてはいけません。つまり、アメリカには現在50個のそれぞれ主権国家に近い州と、その連合体である連邦とがあり、それぞれの舅連邦とが独自の法律体系を持っています。州と連邦との関係は合衆国憲法に定められていますが、連邦は憲法によって認められた特定の事項についてだけ立法・行政・司法の権限を与えられています。ただし、連邦の立法は州のそれに優越します。
企業活動のうち私法的な部分は連邦だけの、または連邦と州と並行した相当領域です。たとえば、特許権、会社の破産などは連邦が単独で担当します。

・法律の存在型式
アメリカの州はイギリスから継受した「コモン・ロー」を基礎としています。コモン・ローは裁判例の積み重ねによって形成された「判例法」です。これは法典の形をとっていません。しかし、週でも今日では通の制定法が制定され、コモン・ローを部分的に修正したり、新しい法律を導入したりしています。
一方、連邦は憲法によって認められた権限の範囲内法律を制定します。連邦法は原則として制定法だけでしょう。

・財産権
どのような財産権が認められるかは州法である「プロパティ」「トレードシークレット」と、連邦法である「特許法」「商標法」などが定められています。プロパティには「リアル」と「パーソナル」とがあり、日本の不動産と動産に対応するが必ず同一ではありません。
また、アメリカのリアル・プロパティでは土地と建物とは区別されません。

・債権
債務関係では日本ではその主な発生原因によって「契約」「法定債権」分野として確立され、事務管理・不当利権については「準契約」「原状回復」という理論で処理されます。

契約法は基本的にはコモン・ロー(判例法)ですが、制定法による重要な修正もあります。「詐欺防止法」と呼ばれる一定の契約には書面を必要とすることを定めた法律と、「統一商法典」と呼ばれる法律とは特に重要です。
前者は制定法ですが州によって内容は同一とは限りません。後者は州の間の法律内容の統一を図るために制定されたもので、現在ではすべての州でほぼ同一の内容で採用されています。統一商法典には、動産の売買、売買に伴う譚プ件の設定などについての体系的なルールが含まれています。アメリカの契約法には日本法に見られない原則も含まれるので注意が必要です。

不法行為も基本的にはコモン・ローです。契約法が色々な種類の契約を個別に扱うことをせず「契約」という統一した原則を確立しているのに対し、不法行為法は全体に共通するようその他に個別の「不法行為」の類型に分解した体系を設定しています。不法行為には多数の類型があることになります。
不法行為法は一定の行為によって他人に与えた損害を賠償させるルールですが、その行為が「故意」による場合、「過失」による場合、「無過失」の場合にも分類されます。企業活動との関係では無過失の場合とくに注意する必要があるでしょう。

無過失責任の一種として、使用者責任と製造物責任とは企業活動において重要です。
前者は従業員の勤務中の不法行為に対して使用者に責任を負わせる原則であり、後者は製造物の欠陥によって第三者に物的・身体的損害を与えた場合に製造物者に責任を負わせる原則です。
日本においても双方とも類似の原則があるので、格別アメリカ独特の制度ではありませんが、アメリカでは使用者・製造者の責任が一層広く認められる傾向がある音に注意しましょう。

・組合・会社
企業活動の遂行形態は州法で定められています。組合と会社については制定法があります。代理は本人が代理人を通じて法律行為を行うことを可能にする制度ですが、組合と会社は複数の人の資金・労力を結集させる制度です。組合には組合員全員が無限責任を負担するパートナーシップと組合員の一部だけが無限責任を負担するリミティッド・パートナーシップとがあります。会社にもいくつかのタイプがありますが、その典型は株式会社でしょう。すべての会社は特定の州の会社法に基づいて設立されますが、デラウエア州の会社法は設立者・経営者に便宜であるように工夫され、アメリカの会社の多くがこの州法に基づいています。
もっとも、現在では「モデル会社法」が提唱され、半数以上の州がこれを採用しています。会社の本拠地は設立した週に置かれるとは限りませんが、会社内部の法律関係は設立準拠法によります。ちなみに、会社の破産については連邦の破産法が適用されます。

・従業員保護
企業経営のためには従業員が雇用されます。雇用関係とは契約によって設定されますが、社会的な観点から種々の従業員保護法が制定されており、連邦と州とが並行して規律します。
代表的な連邦法にはつぎのようなものがあります。

①個別従業員の最低の労働条件を定める厚生労働基準法(監督官庁:労働省)
主として、賃金、労働時間、幼児労働を規制します。
②従業員の採用・人事処遇について一定の不当な差別を禁止する一連の法律(監督官庁:平等雇用機会委員会)
禁止される差別の主な対象は、人種、皮膚の色、性別、宗教、出身地、年齢、身体障害があります。
③従業員の職場での安全・健康を確保する法律(監督官庁:労働省)
④従業員の福利厚生保護のための法律(監督官庁:労働省、財務省)
⑤集団的な労使関係を促進し、団体交渉を円滑化するための一連の法律(監督官庁:前億労働関係委員会)
職場での団体交渉担当者としえの交渉単位と選定と、不当労働行為の排除を目的とします。

・不当競争と独占の防止・排除
不当な競争の規制ルールは「アンフェア・トレード・プラクテイス」と呼ばれる州法が規制し、独立に関連しては「シャーマン法」を基礎として一連の連邦法があります。
「独立」の内容は不公正な取引を含む広範なものですが、合弁会社の設立、企業買収、合併なども対象とされるほか、個別の取引方法が不公平であるとして規制される事があります。連邦取引委員会が法務省と共同して取り締まりにあたります。企業買収の際の事前届け出、価格差別の禁止などもあります。
アメリカでは独占禁止法違反で損害を被ったとする私人にも違反行為の差し止め・損害賠償を提起する権利を認めています。

・紛争解決のための制度・仲裁
法律紛争が発生した場合の最終的な解決方式は裁判であることは言うまでもありません。アメリカには連邦裁判所と州の裁判所の二つの独立した系統が共存します。案件の性質と当事者の相互関係とによってどちらの裁判システムが案件を管轄するかが定まります。
一方、裁判によらない紛争解決の制度として「仲裁」があります。仲裁は、一定の紛争の解決を裁判所以外の第三者の判断にゆだね、当事者はその第三者の判断に従うという合意に基づいた紛争解決制度です。
当事者間にこのような合意があれば、もし紛争が裁判所に持ち込まれたとしても、裁判所はその提訴を却下します。もし当事者の一方が仲裁に応じないときは裁判所の仲裁の実施を命令するよう求めることができます。もし仲裁人の判断に当事者が従わない場合にはその仲裁裁定の強制的な履行を裁判所に申請することができます。当事者が合意した手続き・判断基準に従って当事者が自由選定した仲裁人が行った最低の内容については、裁判所は改めて審理をやり直すことはしません。明らかに不正に行われた仲裁の裁定であれば裁判所はこれを取り消すことができます。

裁判は厳格な法律の規定に従って行われるので法律的な権利・義務関係が公正に判断されるとの期待が持たれますが、当事者にとっては負担が大きいでしょう。仲裁は裁判と比較して手続きも判断基準も柔軟ですし、裁判のような上訴の仕組みがないために一般に当事者に対する負担が小さくすみます。
アメリカでは仲裁のメリットを活用する道を開くために1920年のニューヨーク州の仲裁法を皮切りとしてほとんどの州で仲裁を認めています。36の州では「統一仲裁法」を採択しています。また、連邦裁判所が管轄するような事案については1925年連邦仲裁法が制定されています。

日本では民事訴訟法の規定に基づく仲裁はあまり活用されていませんが、アメリカにおいては仲裁と敵視するいくつかの困難なコモン・ロー上の問題を克服して、今日では法的には仲裁はむしろ奨励されるようになっています。実際、仲裁の活用を支援する組織(AAA)が確立され、仲裁人の選定、仲裁手続きの設定につき便宜を図っています。
国際的な側面では、外国判決の承認・執行の場合と異なり、外国において下された仲裁裁定の執行については「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」が締結されており、世界の主要国のほとんどすべてがこの条約の締約国となっています。
これに加えて、仲裁は困難な法的問題を回避することができるので今日の国際的な契約には仲裁条項が盛り込まれる事が多くなっています。なお、国際的な仲裁を支援する組織としてはAAAやパリに本部を置く国際商業会議所(ICC)、ロンドンのロンドン国際仲裁裁判所(LCIA)、日本の国際商事仲裁協会(JCAA)などが有名です。

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