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大規模案件と弁護士事務所

大手法律事務所の存在理由の1つに「大勢の弁護士が同時に関与しなくてはいけない案件が増えている」というのがあります。たとえば弁護士20人の同時関与が必要な場合、20人に満たない法律事務所では、単体でその案件を処理することができません。
では、同時関与が必要な場合とはどんな場合で、1つの法律事務所で処理しなくてはいけない理由は何でしょうか。

『複数弁護士が関与することの非効率性』

まず、同時関与の典型例として、全国展開する企業が会社更生手続きの開始申し立てをする場合を考えてみましょう。
この会社には全国に20カ所の支店や営業所があります。会社更生手続きの開始申し立てをすると、取引先などから多数の問い合わせが予想されます。当日はパニックを避けるために、すべての支店・営業所にそれぞれ弁護士を配置して今後の進め方を法的に説明しなくてはいけません。
とはいえ、この案件の場合倒産に強いブティック法律事務所が複数連携しチームを編成して行うこともあり得ます。

次に、M&Aの例で考えてみましょう。
M&Aの買い手企業から、1ヶ月以内に対象企業の法務デューデリジェンスを終えてレポートを提出するように依頼を受けたとします。これで弁護士20名が1日8時間ずつ20時間実働して合計3,200時間分の作業を経てレポートが完成します。
しかし、このような大量なレポートを20人で分担することは考えられないでしょう。整合性が取れずに、最終的な調整をかける必要が出てしまいますし、そのコストは多大なものになってしまうでしょう。
では、人数を減らして対応する方法を考えてみましょう。
5名の弁護士でこの作業にあたったとします。20名から5名に減らすことで効率的に作業を進め作業時間を4分の3の2,400時間に縮めることができたと仮定すると、1人あたりの作業時間は480時間。30日間フル稼働でも1日16時間労働が必要となります。
とはいえ、これも弁護士がこの案件のみを担当していた場合の話です。実際の弁護士は、何件もの案件を受け持っています。

つまり、1案件で複数の弁護士を必要とする、というのは“同時に”複数名の弁護士が作業を行うのではなく、複数案件の処理を行っている状態でこの案件なら20人分くらいの弁護士が必要、ということなのかもしれません。
必要人数が決定しているわけではなく、いまの事務所が抱えている案件の状況からすると、この案件であればこのくらいの弁護士を必要とし、他の案件で作業を進められないときには補佐としてこのくらいの弁護士が作業を行わなくてはいけない、というように状況によって弁護士の必要人数を決定していくのでしょう。

『機密保持』

同時期に大勢の弁護士の関与が必要なときに、同一の法律事務所内で弁護士を賄わなくてはいけないのでしょうか。複数の事務所が関与すると機密保持が守れない、という危惧がありますね。たしかに機密保持は重要です。
責任を持って案件に取り組んでいる弁護士であれば、軽はずみに情報を漏らしたりはしないでしょう。誰に責任があって誰が無責任なのか、これは同じ事務所内だからといって保証できる話ではありません。機密保持の問題は、同一事務所内で処理すれば安全、というような簡単な話ではないでしょう。もちろん、事務所をまたいで情報をやり取りする場合には社内で扱う以上に注意が必要になるのですが。

実際に、最も守秘性が高い信用情報を扱う倒産事件の処理が複数の法律事務所をまたいで行われてきたことも事実です。複数の弁護士がチームを組んで案件に取り組む時には、全弁護士を束ねるプロジェクトリーダーたる弁護士のリーダーシップ、弁護士同士の信頼関係がカギとなるのでしょう。

『複数の弁護士を束ねるためのリーダーシップ』

重要なのはリーダーシップと信頼関係。そうはいっても、では実際にどうすればいいのでしょうか。
要は、個々のスタッフ弁護士が最大限の力を発揮できるような環境をいかにしてプロジェクトリーダーが整えてやれるか、ということです。極論すれば、プロジェクトの成果は対外的にはそのプロジェクトリーダーが独り占めする形になります。結果から見れば、プロジェクトリーダーはスタッフ弁護士の仕事の成果を奪う存在でもあるのです。
しかし、1つひとつの作業をこなしていく段階では、プロジェクトリーダーはスタッフ弁護士に仕事へのやりがいと働きやすい環境を与えるべき存在であることが求められます。弁護士の仕事はリスクを分析することに大半の時間を割かれるのですが、プロジェクトリーダーの最大の仕事は、この最後の「リスクを取る」という部分でしょう。プロジェクトが成功した時にその実績を自分の下にできるのと同様に、プロジェクトが失敗すればその汚名もプロジェクトリーダーが負うことになるのです。そして、プロジェクトリーダーがすべての責任を負うからこそ、各スタッフ弁護士は、責任の所存を気にすることなく自身の受け持つ範囲の仕事に全力を尽くすことが可能になるのです。
スタッフ弁護士は、自身の業務遂行スキルを磨き、経験を積むために案件に取り組むことができます。そして対外的には功績を残せなくとも、プロジェクトリーダーの中にその働きが記憶として蓄積されるのです。

いずれにせよ、場当たり的にブティック法律事務所を連携させてチームを編成するのは危険であり、避けるべきでしょう。それよりも、同じオフィスで執務している弁護士だけで仕事を完結できる方が便宜的なのは間違いありません。
ただ、同じ事務所内で案件に取り組むとなると個人の作業に甘えが出てくるかもしれません。自分が目いっぱい頑張らなくても、法律事務所が依頼を受ければ仕事を与えられるのです。それよりも、1つの案件のために他の法律事務所から声をかけられチーム編成をした方が、それぞれが次の機会を得るためにより一層、緊張感を持って作業に取り組む可能性が高いかもしれません。

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