技術に関する法務を考える場合には、二つの側面があります。
1つ目は自社がすでに持っている技術を活用する場合、もう2つ目は新しい技術を獲得する場面です。前者はたとえば一定の技術の効果的な実施、第三者への供与などを含みます。
後者については、複数の面から検討する必要があるでしょう。
新しい技術の獲得は、自己努力による開発、他社との共同研究、他社技術の獲得などの手段によって行われます。それぞれはどのような特徴を持っているのでしょうか。
(1)自社開発と技術の保護方式
自社努力により技術開発することはメーカーにとって最もオーソドックスな方式であり、それを経営方針とする場合には適切な人材・資金を投入することになります。悪べつな法的仕組みを考えるまでもないでしょう。
しかし、技術開発には膨大な経営資源が投入されるものであり、その成果は企業の重要な試算であるから外部への漏えいは厳格に防止しなくてはいけません。一般医技術は目に見えないものであり、一旦外部に流失すると取り返しがつきません。そこで、法律的には卯木のような方策を検討する必要があります。
・開発した技術を特許権として確立し、法定な保護を受けるか、またはすべて企業秘密として社内に留保しておくか。
特許出願すると、その技術の核心は当然一般に公開されます。特許権が成立すれば一定期間は独占使用の権利を与えられますが、その期間が満了すると、その技術は公共の財産となります。特許出願作業と特許権の維持にもコストがかかります。企業秘密として扱えば公共の財産とされる事はない代わりに、外部漏洩に関しての保護もなくなってしまいます。同一技術を他社が開発して特許権とすれば独自の秘密も使用できなくなる事があります。
・できるだけ特許権として保護する方針を取る場合も、すべての技術が特許として認められるとは限りません。技術開発の成果の一部は必ず企業秘密という形を取ります。
技術は全て企業秘密として扱う場合も含めて、その企業秘密をどのようにして管理し、社外への流出を防止するか、企業秘密は適切に管理されている限り一定の法的な保護を受けます。
・技術は人間の頭脳に蓄積されるものでもあります。そして人間の社外への流失は厳格に阻止することができません。このようなルートを通じての技術漏えいの可能性をどのようにして防止できるのでしょうか。
通常は秘密保持契約の締結が考えられますが、どの程度実際の効力を持たせ得るかについては問題視されます。
(2)技術の共同開発
技術開発には多様な知識を組み合わせることが効果的であると考えられます。その手段として関連分野の複数企業が協同して作業する事があります。また、開発に必要な意思菌が巨額に上るときは、複数企業が資金を出し合う事があります。
法律的には、共同開発契約を締結して各当事者の役割を定め、共同作業の成果を配分することになります。同時に、当事者が持ち寄る技術ならびに共同で開発される技術の秘密保持も重要です。
共同開発から得られる成果への期待は大きいですが、問題は各当事者の貢献の度合いと成果の配分をどのように定めるかが困難なことです。当事者の利害関係が完全に補完的である場合には調整は比較的容易ですが、多少とも競合的である場合には困難を要します。
つまり、将来の法的な問題を予想しつつ、共同開発のパートナーを誰にするか慎重に洗濯しなくてはいけません。
典型的な共同開発は、ある製品のメーカーとその原材料供給者との間で行われます。メーカーはその製品の改良のためにどのような特性の原料が必要かを知っており、原料供給者は原料の製造技術に詳しいとします。このような知識を組み合わせることでもたらされるメリットは自明でしょう。
その場合、メーカーとしては共同開発の成果は自社に供給する原料の製造のためにだけ使用される事を希望し、原材料供給者は新しい技術を用いた製品を広く販売していきたいと希望するでしょう。これをどのように解決するかがあらかじめ合意されなくては共同開発は実現しません。
(3)他社からの技術の購入
技術と言う場合、一般に特許権と企業秘密として保有される知識(ノウハウ)が含まれます。特許権とノウハウとは法律的な性質が異なるので区別して扱わなくてはいけません。
メーカーが自社で技術開発を行った結果、一定の成果が得られたとします。ところが、その技術はすでに他社が特許権として確立していることが判明する事があります。またはその技術を使用して製品販売を始めたところ、他社から特許権侵害の警告を受けたり訴訟によってその技術の仕様を差し止め請求される事があります。
このような場合には当該メーカーとしてはその技術の仕様を諦めるか特許権侵害を回避するよう技術に手を加えるか、もしくは特許権の使用権を獲得しなくてはいけません。この最後の手段としては、特許権の購入・実施権(ライセンス)取得があります。
第三者が特許権を取得しているにもかかわらず自社開発の技術を使用することができる場合が有るので、念のため言及しておきます。いわゆる「先使用による通常実施権」です。つまり、「特許出願に係わる発明の内容を知らないで自らその発明をし、・・・、特許出願の際、・・・、現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有する。」
特許権は一つの財産権であるから、特許法には明文の規定はありませんが、特許者はそれを自由に譲渡することができます。つまり、上記メーカーは問題の特許権を購入すれば自社開発の技術を使用することができますが、特許権を購入したとしても技術の内容そのものが改良されるわけではありません。メーカーとしては余分な支出を余儀なくされただけでしょう。
特許権に係わる発明は特定の技術の詳細を明細書に記述したものですが、ふつうはその技術を実際に使用するためには明細書の記述だけでは不十分です。自社に一定の技術を他社に使用させないだけの効果しかありません。
メーカーとしては他社のノウハウを購入する事もあり得るでしょう。この場合の問題としては、ノウハウは企業秘密であるため、あらかじめその内容を明確にしがたいところにあります。購入するノウハウの内容を売買契約書に明示することができません。
対応策としては、購入するノウハウを「結果をもたらす技術情報一式」と定めることが考えられますが、ノウハウは使い方によっては所定の結果をもたらさない事もあり、結果がうまくいかない原因がどこにあるのか明らかにしにくくなっています。
ノウハウを厳密に定義することは困難ですが、簡単にいうと「秘密として保持したい技術上の秘訣」ということになります。技術上の秘訣であっても特許権などの法的な地位を確立しない限り公表・漏えいされれば一般大衆の共通財産となってしまいます。
日本のおけるノウハウの法的保護については従来必ずしも明確ではなかったのですが、平成2年の不正競争防止策の改正で工業所有権並みに保護されるようになりました。
(4)他社技術の使用権(ライセンス)の取得
特許権やノウハウは購入するのではなくその使用権を取得するという方法もあります。使用権は特許権のみ、ライセンスのみ、両方を組み合わせて取得することができます。
特許権の場合には、専用実施権と通常実施権とがあります。なお、特許権、ノウハウの国際的な実施権契約に「イクスクルーシブ」「ノン・イクスクルーシブ」との表現がなされる事がありますが、この区分は必ずしも専用実施権・通常実施権の区分に厳密に対応するものではありません。
契約条件としての「イクスクルーシブ」ライセンスは、一定の地域内・地域を限定せずに、同一の特許権またはノウハウの使用権を特定の者以外には与えないという約束です。特許権またはノウハウの所有権自身は当然にはその使用を妨げられることにはなりません。イクスクルーシブ・ライセンスを受けたものはその侵害行為に対して自ら法的な排除措置を取ることができるとは限りません。
これに対して「専用実施権」は、特許法の定めにより特許権を対象としており、ノウハウには席要されません。専用実施権者は実施権を占有し、特許権の侵害行為に対しても当然に自ら排除措置を取ることが出来ます。
・特許権だけのライセンスは、ライセンスを受けるものがその特許権を使用するに足る技術を持っていることが前提となります。ライセンスの対象・範囲は特許番号や特許明細書によって明確に確定することができ、特許権の期間も明確となります。
・ノウハウ・ライセンスの場合には検討・注意すべき事項が多くなります。
また、特許権とノウハウとがパッケージとしてライセンスの対象となれることは極めて多くなります。