Home / 法務の基礎 / 法務人員の知識とスキルと教育

法務人員の知識とスキルと教育

企業法務を支えるのは、究極的には“人”です。特に、法務は一人一人の資質が重要な要素となります。日本企業の従来の法務要員の配置及び要請は、どちらかと言うと、一括採用した社員を部門ごとに“割り振り”、職場での実務を通しての教育指導で養成する、と言うのが主流でした。
しかし、近年その在り方にも変化が見られます。法務部門の求人市場も出来つつあり、弁護士などの有資格者も企業の法務部門に入るようになってきました。

従来、法務教育は新入社員が中心となっていました。しかし昨今、監理者教育の強化の必要性が唱えられています。これは、企業教育の主眼が、一般的な社員教育から明確な目的を持った教育へと変わりつつあることを示しています。
法務教育は何を主眼に置いているのでしょうか。企業法務、とくに国際企業法務の業務の拡大と多面化が進んでいるなか、法務要員が企業法務のすべての分野をカバーすることは理想的ですが、困難であり現実的でもないでしょう。
例えば輸出志向の企業にとって、輸出指向の企業にとって輸出関連の法務の仕事は、企業法務の中枢的な業務であって、欧米への大量輸出が続けばアンチ・ダンピング調査にさらされているおそれも出てきます。その場合は、通商関係業務を行うセクションや担当者も必要となります。また、技術志向の強い企業の場合、自らが開発した技術及びその権利をライセンス契約の形で実施権を供与または交換していくことが重要な法務業務となります。
したがって、企業の業態や国際化の進度が企業法務のあり方に大きな影響を与えることになります。ポイントはすべての法務機能をまんべんなく遂行できるスタッフは理想的には好ましいが必ずしも必要ではない、と言う点です。
採用した法務スタッフに対しては、必要な分野・機能に焦点を当てた“メリハリ”のついた教育を目指すべきです。また法務教育の重要なもう一つの側面は、企業法務を行っていくうえで企業全体として重視すべき“利益”は何かを的確に認識させることです。

企業法務は企業活動の一環であり、かつ一部です。法務要員は、法律専門家である前に、企業人であると言う自覚が大事です。要は、企業全体の進んでいる方向とその価値観を日々の法務活動といかに結び付け、活かしていけるかが重要になります。
企業法務の活動は、最終的には企業トップの意思決定につながっている場合が多く、企業の事業活動の理解、特に法務的な指摘からの理解を養うことは法務教育の最重要な目的です。

次に、誰が教育を担当すべきか、と言う点ですが、企業法務の教育は本来OJTで行われます。OJTでカバーできない部分を講義方式の教育で補強していくと言う形になります。
上記の教育の目的に沿って、中堅法務要員に法務部門長より、各自の固有の法務機能についての意識付けを行ったうえで、各事業部門のトップが教育に参画し、法務機能に求められる事業の状況と環境を企業全体の立場から始動することが望ましいと言えます。

企業の多面化、複雑化および国際化に伴う問題の解決には、従来の法務に要請されたものとは異なる知識とスキルが求められます。それはどのようなものでしょうか。

①契約重視の海外企業との付き合いの中で、単なる契約法理論の理解だけではなく、実際に契約を作成する力および契約についての交渉力は必要とされます。これは、国際取引だけにとどまりません。国内取引においても契約という形で“合意”を明確化し、なんとなくで了承していた企業取引のあり方に変化をもたらします。
②二国間又は多国間で争点となる通商問題、国際提携、国際紛争の解決にとって、当該国の法律知識だけではなく、国際的な条約、取決め、法慣行などの知識も重要な要因となります。
③独禁法、製造物責任、知的財産権を扱う問題では、日本国内と海外との枠を超えて取引や訴訟が展開されています。国内・海外の法制の違いを理解しておく必要があるでしょう。
④企業法務の活動において、実際の契約交渉、政府当局との折衝、さらに、訴訟遂行の過程において専門の弁護士を起用することは重要な法務活動となります。
上述したように、有能な弁護士をいかに選び、起用し、最大限に協力してもらうかが重要なポイントとなります。

これらの点を考慮すれば、従来の法務に必要とされてきた知識・ノウハウに加えて、下記の点が基礎的に求められる重要な知識・ノウハウと言う事になります。要は企業の国際化に対応する能力が求められると言う事になります。

①語学力(特に英語)の必要性
世界の企業塵引きの主流は英米法をベースとしていると言っても過言ではありません。これは経済力で世界をリードする米国の存在と、旧被支配国に色濃く残る英米法の影響によるものです。
ただし、要求される語学力は単に契約分を読解及び作文するものではなく、契約交渉に耐えうる能力も必要となる、と言う事です。
②多極化する国際化に対応する地域的ノウハウの確保
日本企業の活動は、一層多極化の方向を示しています。具体的に言えば、欧米中心であった日本企業の国際事業展開が次第に中国を中心とするアジアへと転身し始めており、そのスピードは一層早まっています。これらの地域では、欧米企業との付き合いの上で必要とされる語学、契約及び法律の知識だけでは対応が難しいでしょう。
つまり、当該地域の言葉、思考方法、政治、経済などの社会的背景についての地域的スペシャリティーが必要となってきます。
③複雑な事業案件を理解する上での財務的分析力
法務要員は財務の専門家ではありませんが、国際事業の高度か・複雑化は様々な側面で財務的な分析を必要としています。上述した国際プロジェクト案件におけるプロジェクト・ファイナンスもその一つの例です。財務的・経理的な知識を持つことにより、より広い視点方法務を展開していくことが可能になります。

Check Also

企業における事件・事故のパターン

リスクを回避・除去できずに発生 …

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です