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破産
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破産制度の目的
倒産企業の早期解体、平等でより多くの配当、破産した個人の救済
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平等な配当
次のような事態に対して、破産法は、2つの手段を用意している。
・債務者が破産状態になると、債権者は代物弁済として債務者の財産を持ち去る。
・ハイエナのように倒産屋が現れ残存財産を巧みに奪っていく。
・債務者が今後の自分の生活のために財産を隠匿する。
破産手続開始前の財産保全措置(24条以下) | 否認権(160条以下) |
破産手続開始申立てがなされると、裁判所は、破産財団に属すべき財産について債務者の管理処分権を制限するために、次の措置を命ずることができる。(破産手続開始決定により生ずべき効果の先取り)
他の手続の中止命令(24条) 包括的禁止命令(25条以下) 財産保全処分(28条 保全管理命令(91条) |
破産財団に属すべき財産が破産手続開始前に不当に流出した場合に、破産管財人はそれを否認して無効にすることができる。
・偏頗行為(特定の債権者への弁済行為等)の否認 ・詐害行為(財産減少行為)の否認 |
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用語
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破産債権者
破産債権者 | 「破産債権を有する債権者」(実質的意義での破産債権者)(2条6項)。
形式的意味では、「(破産債権の)届出をした破産債権者」(31条5項) |
財団債権者 | 破産手続によらないで破産財団から随時弁済を受けることができる債権(財団債権)を有する者である(2条7項・8項)。財団債権は、破産手続開始後に生じる債権を中心にして、148条等で規定されている。 |
別除権者 | 破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき特別の先取特権、質権又は抵当権を有する者は、目的財産について破産手続外でこれらの権利を行使することができ、そのような権利を有する者を別除権者という(2条9項・10項) |
取戻権者 | 破産者に属しない財産を破産財団から取り戻す権利(破産管財人の支配を排除する権利)を有する者(62条)。所有権に基づき破産管財人に対して引渡しを請求することができる者がその代表例である。 |
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破産手続開始申立てと開始決定による効果
破産手続開始申立て後・開始前 | 手続開始後 | |
債務者による財産処分の制限 | 債務者財産の保全処分(28条)
保全管理人による財産の管理・処分(91条・93条) |
破産財団が形成され(34条1項)、破産管財人が管理処分権を取得する(78条)。 |
債権者による権利行使の制限 | 個別の中止命令(24条)
包括的禁止命令(25条以下) |
あらたな強制執行、仮差押え、仮処分、一般の先取特権の実行、企業担保権の実行、財産開示手続の禁止(42条1項・6項)並びに既になされているものの失効(42条2項・6項)
新たな滞納処分の禁止(43条) 破産財団に関する訴訟の中断(44条・45条) 行政庁に係属する破産財団に関する事件の中断(46条) |
債務者の行動の制限 | 保全管理人に対する破産者の説明義務(96条・40条)(96条で41条・81条が準用されていないことに注意) | 破産者の居住制限・引致(37条以下)
破産者の説明義務(40条)・重要財産開示義務(41条) 破産者宛の郵便物等の管理(81条) |
第三者の財産の保全処分 | 否認権のための保全処分(171条)
役員の財産に対する保全処分(177条2項) |
否認の相手方に対する民事保全法による保全処分。
役員の財産に対する保全処分(177条1項) |
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破産開始申立
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破産開始申立の手続
予納金・・・破産手続費用に充てられる(例えば、いろんな活動をしてもらう破産管財人の将来の報酬)。なお債権者破産においては予納金が高く設定される。債務者を威嚇して債権取立の手段として債権者破産申立を防ぐためである。
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破産開始申立の効果
破産開始申立から手続開始までの債務者財産の減少を防ぎ、債権者間の公平を図るため、債権者財産の保全制度がある(24条~28条)
・債権者による権利行使を個別に禁止する(24条)
・債権者による権利行使を包括的に禁止する(25条)
・債権者による財産処分を禁止する(28条)
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債権者破産(第三者破産)
平成19年司法統計:自己破産事件15万7245件、債権者破産事件644件
自己破産のメリットは資金繰りに窮する状況からの開放、債務無しにしての再出発に尽きる
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債権者破産のメリット
債権者にに比べてそれなりのメリットがあるからに他ならない。思いつくのは次の4つである。
判決取得→強制執行 | 破産手続 |
債務名義の取得が必要 | 不要 |
債務者の個別財産を特定して行う必要があり、空振りの危険がある | 債務者の総資産が引き当て |
双務契約解除や否認権による引き当て財産の増加 | |
債務者の財産状況や資金の流れが明らかになる(債務者の説明義務や財産開示義務など) |
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債権者破産の利用件数が少ない理由
理由1:支払不能や債務超過といった破産手続開始要件の証明が難しい。なお、裁判所も自己破産に比べると詳細な内部資料の提出は求めずに、それまでの債権者との支払交渉経緯などを加えて、支払不能をにおわせる程度の疎明で済ませている。
理由2:予納金の支払いが必要
この予納金が準備できないため、ハートサービス社に対する債権者破産は実現せず(予納金設定350万円)、アフリカントラストに対する債権者破産も実現せず(予納金設定500万円以上見込)、近未来通信に対する債権者破産は実現したが1900万円もの予納金が必要となった。
http://mainichi.jp/select/news/20130420k0000m040135000c2.html
そんな中でようやく、国庫による予納金仮支弁が日本で初めて、この福岡地裁で偽装質屋の「恵比寿」「ダイギンエステート」で却下されず、初適用されたのである。
http://mainichi.jp/select/news/20130501k0000m040079000c.html
国庫仮支弁(破産法23条1項)とは、裁判所が申立人の資力・破産財団になると見込まれる財産の状況・その他の事情を考慮して、申立人らの利益の保護のため特に必要と認められる場合に発動される。
国庫仮支弁はあくまで国の税金による一時的な破産手続費用の立替であって破産手続を経て全て回収できることを想定しているようだから、ポイントは、破産手続によって形成される破産財団によって全額仮支弁額を回収できる見込の疎明が申立時点でできるかどうかにあるようだ。
福岡地裁の上記ケースは、債務者の財務状況を外からうかがうことは一般に困難なため、債務者内部の資産によって全額仮支弁額を回収できるのかのの立証がきわめて困難であるにもかかわらず、くじけずその疎明にはじめて成功したものということになる、天晴と思う。
最後に、国民が利用しやすい司法制度を目指して始まった司法改革であるが、LSだったり裁判員裁判だったり利用者に手間や金をかけさせる改悪が中心で(ほぼ唯一の例外が労働審判制度)、実際に消費者被害にあった国民を救済するために金の要る場面へのサポートは、前記ハートサービス社などのケースで分かるようにまるで放置されている。
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予納金
予納金の倍額程度の財団が形成されれば全額戻ってくると言われているが、だいたい戻ってくる。
債権者破産は多いときには、1ヵ月半で30件も申し立ててたことがあります。そのころは裁判所から「文句を言われないかな?」と心配もしましたが、実際は何も言われないので安心したことがありました。でも、回収の為にやっていることなのでそんな心配をする必要すらないんだと今では考えています。債権者破産を申し立てるときは予納金がかかります。これは、破産管財人が業務を執行するための費用として使われます。債務者自身が申し立てるときは、少額管財という形で、最低20万円を予納すれば申立が可能となっていますが、債権者が申し立てるときはそうわ行きません。予納金額は次の通りです。
債務者の全体の負債額 法人 個人
~ 5千万円 70万円 50万円
5千万円~ 1億円 100万円 80万円
1億円~ 5億円 200万円 150万円
5億円~ 10億円 300万円 250万円
10億円~ 50億円 400万円 400万円
50億円~100億円 500万円 500万円
100億円~250億円 700万円 700万円
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破産手続開始決定
破産申立に基づき、破産手続開始決定により開始する(2条1項、30条1項)
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破産手続開始決定
手続要件と実質要件
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破産手続開始原因(15条-17条)
支払不能 | 「債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものについて、一般的かつ継続的に弁済することができない状態」(2条11項)
「支払能力を欠く」とは、弁済手段を欠くこと(金銭債務については金銭、種類債務については種類物またはその調達のための金銭、特定物の給付債務については当該特定物、その調達手段または債務不履行による損害賠償の支払にあてる金銭、等) |
支払停止 | 債務の弁済手段を欠いているという債務者の主観的認識を外部に表明する債務者の行為ないし態度(あるいは、その認識を前提にした債務者の行動)
支払不能の推定事由である(15条2項) |
債務超過 | 債務者が、その債務につき、その財産をもって完済することができない状態 |
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破産手続開始の効果
①破産者は財産管理処分権限を失い、破産管財人が選任され、破産者財産の大部分は破産財団となる。
②法人は破産手続開始により解散する(なお破産手続中は清算を目的として法人格が存続する)。
③個人は資格制限を受ける。
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破産財団と自由財産
破産手続開始の時点で、破産者の財産は、破産財団と自由財産に分割される。
破産財団とは、「破産者の財産又は相続財産若しくは信託財産であって、破産手続において破産管財人にその管理及び処分をする権利が専属するもの」(2条14項)
法定財団(2条14項、34条、156条) 法律上、破産債権者の満足に充てられるべき財産の集合。
現実財団(62条) 破産管財人が現実に管理している財産の集合 。
配当財団(193条) 破産財団に属する財産の換価により得られた、配当にあてる財産(金銭)の集合。
自由財産は、破産者が管理処分
留保財産(破産者が破産手続開始時に有する財産のうち破産者に留保された財産(34条3項・4項))
新得財産(破産者が破産手続開始後に得た財産(34条1項参照))
法定財団
|整理の規準
整理
現実財団─→換価─→配当財団
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破産財団の範囲(34条)
「破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする。」(34条1項)
「破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権は、破産財団に属する。」(34条2項)
破産財団に属するか? | 備考 | |
担保権が設定されている財産 | ○属する | ただし、別除権の対象である場合は実質的に破産財団に属さない、といえる。 |
信託財産(受託者の破産) | ×属しない | 信託財産は破産者に属するが、信託制度の機能維持のため破産財団に属しない(信託法25条参照) |
責任保険の保険金請求権 | ただし、被害者保護のために先取特権(保険法22条1項) |
法定財団 | 自由財産 |
破産者に属すること(2条14項・34条1項)⇔取戻権。 | 一身専属的権利 |
破産手続開始時に破産者に属すること(将来の請求権を含む)(34条1項・2項)。 固定主義(⇔膨張主義)。 | 新得財産(破産者が破産手続開始後に得た財産) |
差押禁止財産を中心とする個人債務者に留保された財産に該当しないこと(34条3項・4項)。 | 差押禁止財産を中心とする留保財産 |
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破産者が外国において有する財産(34条1項括弧書。普及主義。)
破産者が外国において有する財産にも日本で選任された破産管財人の管理処分権が及ぶ(普及主義)。ただし、破産管財人が外国において管理処分を行うには、当該外国が日本の破産管財人の管理処分権を承認することが必要。
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破産者が破産手続開始後に得た財産(34条1項2項。固定主義。)
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破産者が有する将来の請求権(停止条件や始期が法律上当然に付されている請求権)
将来の請求権もその発生原因が破産手続開始前にある場合には、破産財団に含まれる(34条2項)。
・保証人の事後求償権(保証人の弁済が求償権発生の停止条件)
・建物明渡前の敷金返還請求権(停止条件付債権(最高裁判所 昭和48年2月2日判決)
・破産手続開始決定後の保険事故による保険金請求権(破産財団に属する財産を目的物とする損害保険)([加藤*1927a]2頁)[5]。
・生命保険の死亡保険金の受取人としてその請求権発生当時の相続人たるべき個人を特に指定した場合には、右請求権は、保険契約の効力発生と同時に右相続人の固有財産となり、被保険者(兼保険契約者)の遺産には含まれないと解されている(最高裁判所 昭和40年2月2日 第3小法廷 判決(昭和36年(オ)1028号))。したがって、保険金受取人について破産手続が開始された後で被保険者が死亡した場合でも、保険金請求権は破産財団に含まれることになろう(ただし、反対説の余地もある)。保険金受取人として相続人が指定されている場合でも同様であり、受取人が指定されていないが、約款により相続人が受取人になる場合でも同様である。
・退職前の退職金支払請求権。ただし、不確定期限付債権とする見解もある([加藤*2006a]121頁) 。
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破産手続開始後の破産者の行為により第三者が取得した権利
47条 | 法律行為についての破産手続上の無効 |
48条 | 法律行為以外の行為の破産手続上の無効。たとえば、債権譲渡の承諾など。 |
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共有関係の解消(52条)
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双方未履行の双務契約の解消(53条、54条)
破産者の債務の履行
(相手方の債権の満足) |
相手方の債務の履行
(破産者の債権の満足) |
履行が完了していない債務(満足していない債権)の取り扱い |
完了 | 完了 | 否認されない限り、履行の効力は維持される。 |
未履行⇒破産債権 | 完了 | 相手方の債権は破産債権になる |
完了 | 未履行⇒破産財団 | 破産者の債権は破産財団になる |
未履行 | 未履行 | 53条により規律 |
・破産管財人に解除権がある(53条1項)。その趣旨は、財団債権の迅速な整理。
・解除を選択した場合は、相手方の損害賠償請求権は破産債権になる(54条1項)。
・履行を選択した場合、相手方の債権は、破産債権になる。
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倒産解除特約(破産手続開始申立てを解除権発生原因とする特約)
倒産解除特約は無効。
利害調整を目的とする破産法の制約から当事者が恣意的に逃れることは認めない。
買主が倒産した場合の売買契約について、再建型手続において重要となる。民事再生事件についてであるが、秋田地方裁判所 平成14年4月4日 判決(平成13年(ワ)第126号)参照)。
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履行が選択された場合
相手方には、自らが履行しても、破産財団の不足により、反対給付が満足に受けられないリスクがある。
・同時履行の抗弁権が可能(148条3項、103条3項)
・使用人や請負人には解除権がある(民法631条、642条1項)
・賃貸人には解除権がない。しかし148条3項・103条3項により前払義務が認められれば、賃料債権は保護される。
履行が選択された場合の相手方の相殺権
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継続的給付(55条)
(継続的給付を目的とする双務契約)
第五十五条 破産者に対して継続的給付の義務を負う双務契約の相手方は、破産手続開始の申立て前の給付に係る破産債権について弁済がないことを理由としては、破産手続開始後は、その義務の履行を拒むことができない。
2 前項の双務契約の相手方が破産手続開始の申立て後破産手続開始前にした給付に係る請求権(一定期間ごとに債権額を算定すべき継続的給付については、申立ての日の属する期間内の給付に係る請求権を含む。)は、財団債権とする。
3 前二項の規定は、労働契約には、適用しない。
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賃貸借契約(56条)
(賃貸借契約等)
第五十六条 第五十三条第一項及び第二項の規定は、賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利を設定する契約について破産者の相手方が当該権利につき登記、登録その他の第三者に対抗することができる要件を備えている場合には、適用しない。
2 前項に規定する場合には、相手方の有する請求権は、財団債権とする。
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賃貸人の破産
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賃料の事前処分
現行法は、破産手続の関係でも、将来の賃料債権の処分の効力を制限していない(旧63条の削除)。
賃料債権の譲渡については、一般の債権譲渡の対抗要件の具備で足りる。
賃料前払の効力は、破産手続の関係でも主張できる。
将来賃料債権を利用した資金調達は広く行われているため、破産手続上も認めざるを得ない。
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賃料債権を受働債権とする相殺
賃借人は、破産者となった賃貸人に対して有していた債権を自働債権として将来の賃料債権と相殺することができる[36]。したがって、賃借人は、賃貸人の有する将来の賃料債権を引当てにして賃貸人に信用を供与することができる。これも、賃料の事前処分の保護の延長線上のことである。
賃借人の有する自働債権は、非金銭債権でも、期限付債権でもよい。停止条件付債権の場合の相殺は、70条による。その代表例が次に述べる敷金返還請求権である。
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敷金返還請求権(70条後段)
敷金返還請求権は、賃借人が目的物を返還した後に確定する被担保債権を控除した残額の返還を請求する権利。一種の停止条件付債権として扱う。
・破産手続開始後の賃料債権を受働債権とする相殺を可能にするため、自働債権(敷金返還請求権)の現実化を解除条件として賃料債権の弁済を認める。
・解除条件が成就して弁済が効力を失うと、賃料債権が復活し、賃借人は、これと敷金返還請求権とを相殺することができる。相殺がなされると、破産管財人が受領した弁済金は不当利得になる。そのため、賃借人は、賃料弁済時に、解除条件成就後における弁済金の返還を確実にするために、破産管財人に対して、提供した敷金額に満つるまで支払賃料を寄託すること(特別の財産として管理すること)を請求することができる。この寄託の請求には、賃料の弁済を解除条件付きとする意思表示も含まれていると解すべきである(寄託を請求しないと、原則として、無条件の賃料弁済と扱われ、その後に敷金返還請求権が発生しても、賃料債権との相殺ができないから、弁済金の返還を請求できない)[18]。
改正前破産法103 条1 項は、賃料債務を受働債権とする賃借人からの相殺を当期・次期分しか認めず、ただ、敷金がある場合には、その返還請求権の限度で、当期・次期を超える賃料部分との相殺も認められるものとしていた。しかし、破産法は、賃料の処分等の制限のみならず、賃料を受働債権とする相殺の制限も廃止した。また、破産法は、賃借人は管財人に対して賃料を弁済する際に、敷金の債権額を限度として、賃料弁済額の寄託を請求することができることを明確化した(破70 後段)。
・貸主に更生手続開始決定がされ、敷金返還請求権が更生債権とされた事例(東京地判平成14年12月5日)
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賃借人の破産
破産管財人は、解除or履行を選択できる(53条)。なお、民法旧621条は賃貸人解約権を認めていたが廃止された。
破産手続において、賃借人が破産をした場合に、その法律関係はどうなるのでしょうか。
私的整理を続けていく場合でも、遊休不動産を旧会社に残置し、旧会社を破産手続で処理することもありますし、私的整理⇒破産に移行することもありますので、賃借人の法律関係についてチェックしておくことが必要です。
破産法53条1項の適用
賃借人が破産した場合、破産管財人は、賃貸借契約を双方未履行の双務契約として、賃貸借契約の解除又は履行継続のいずれも選択的に請求できます(破産法53条1項)。
法人破産 | 個人破産 |
破産管財人は賃借権が換価できる場合、収益物件としての価値を維持したり、事業継続等の理由により、契約を維持する必要がある場合のほかは、賃貸借契約を早期に解除することになります。 | 賃借物件が住居の場合には、生活場所を失うことはできませんので、通常は賃貸借契約を維持し、破産手続開始決定後に弁済期が到来する賃料は「自由財産」(新得財産)から払ってもらうことになります。 |
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管財人が契約解除を選択した
- 賃料等
破産管財人が賃貸借契約を解除する場合、
破産手続開始決定時までの未払い賃料債権 | 破産債権(破産法2条5項) |
破産手続開始決定後から賃貸借契約解除までの賃料債権 | 財団債権(破産法148条1項8号) |
賃貸借契約解除後の賃料相当損害金 | 破産管財人の管理処分権に基づく解除の場合は財団債権(破産法148条1項4号)(最判昭和43年6月13日) |
- 違約金条項(賃貸人の損害賠償請求権)
例えば大規模小売業者が出店する場合に、土地所有者に資金(建設協力金)を提供して店舗用建物を建設させ、その建物を長期(例えば15年)にわたって賃借することを約束することがある。
・償還条項(建設協力金は賃借期間中の賃料の一部をもって償還する)
・違約金条項(賃貸借契約途中終了の場合、賃貸人は賃借人に残賃借期間の賃料相当額を損害賠償請求できる)
・相殺条項(建設協力金返還請求権とこの損害賠償請求権との相殺)
上記合意は、53条による賃貸借契約解除の場合でも有効。
いずれの債権も、破産手続開始前に原因のある債権であり、67条2項により相殺が許される。
ただし、相殺による優先回収は実損の(合理的な)範囲に限る(賃料収入減少分(名古屋高判平成12年4月27日・判例時報1748号134頁))
「解除に際して、賃貸借契約中の解約予告期間条項、敷金等放棄条項や違約金条項が破産管財人を拘束するかどうかについても議論があるが(石原康人「賃貸借契約における違約金条項の有効性等」NBL893号4頁(2008年)、新版破産法220頁(富永弘明))、実体法上有効と認められる限り、破産管財人もその負担を受任せざるをえず、これに拘束されると解すべきである(前掲東京地判平成20・8・18もその有効性を認めている)。」
- 原状回復義務
破産手続開始決定後に賃貸借契約が終了する場合 | 破産管財人が原状回復義務を負い、原状回復費用は財団債権となる(破産法148条1項4、8号類推) |
破産手続開始決定前に既に発生している原状回復請求権 | 金銭化され破産債権となる(破産法103条2項1号イ) |
- 敷金・保証金
(1)未払賃料当の充当について
破産管財人は、賃貸人に対し、破産者が預けていた敷金・保証金等の返還を求めることになりますが、他方で、賃貸人側は未払賃料、賃料相当損害金、原状回復費用の控除を主張してくることになります。
ところで、最判平成18年12月21日(※)は、「破産した賃借人の破産管財人が、賃貸人との間で破産宣告後の未払賃料等に敷金を充当する旨の合意をして、質権の設定された敷金返還請求権を阻害したことが、質権者に対する目的債権の担保価値を維持すべき義務に違反するとされた事例」ですが、
これはあくまでも質権が設定されていた場合に、破産財団に賃料を支払うのに十分な資金が存在し、これを現実に支払うことに支障がなかったという本件の事実関係の下では、担保価値維持義務違反があることを論じたものに過ぎず、
十分な資金がない場合は射程外と考えられますし、ましてや破産手続開始決定後の未払賃料等に敷金等を充当することが否定されるわけではないと考えられます。
※この最高裁判決は私的整理の局面でも非常に重要です。
私的整理(私的再建)の場合にも、債務者および債務者代理人に誠実義務や担保価値維持義務が問題となりうるからです。
例えば、借地権付建物を所有しており、建物に抵当権を設定しているとした場合に、お金があるのに、地代を支払わなければ、借地権が解除され、担保権が害される可能性があります。
そこで、債務者側としては、お金があるのにあえて不払いするのは論外として、お金がないとしても、勝手に地代不払いをして解除されるのを待つのではなく、担保権者に事情を説明し、担保権者に地代を支払ってもらうなど担保権者が害されないように配慮する必要があると解されます。
(2)違約金支払いの特約の効力について
実務上、賃借人が契約を解除するには一定期間を必要とし、その期間前の解除は、違約金を没収したり、損害金等を支払う特約がなされていることがあります。
いわゆる会社更生や民事再生で問題となった倒産解除特約の効力の問題とも考えられますが(会社社更生手続および民事再生手続の場合には、かかる特約は無効であると解されています。最三小判昭57.3.30・最三小判平20.12.16参照)。
もっとも、上記2つの判例は、倒産解除特約が事業の更生・再生を図るという会社更生手続・民事再生手続の趣旨・目的に反することを主な理由としていますので、その射程が破産手続に及ぶかはなお議論の余地があります(伊藤眞『破産法・民事再生法[第2版]』274頁等参照)
この点、議論は定まっていないように思いますが、破産法53条が破産管財人に与えた法定の解除権と考えられることからすると、当事者の特約に破産法53条に基づく管財人の解除権行使は制限されないと考えるのが素直な解釈に思われます(東京地判平成21年1月16日金融法務事情1892号55頁参照)。
また、破産管財人が賃貸借契約の解除をした場合には、それによって相手方(貸主)が損害を被ればその賠償請求権は破産債権になるに過ぎません(破産法54条1項)。
そして、賃貸人が破産債権たる損害賠償請求権を自働債権として、相殺することは、破産債権が破産手続開始後に発生したものとして、否定的に解されます(破産法72条1項参照)。
なお、上記特約に破産管財人が拘束されるとの立場に立った場合でも、公序良俗に反するような不当に賃借人に不利な契約は、当該条項は公序良俗に反し、無効と解され、その部分に関しては特約は効力を有しないことになります。
結局は、契約解釈の問題となると考えられます。実務的には和解処理が多いと思われます。
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委任契約(57条)
委任契約は当事者一方の破産により当然に終了する(民法653条)。
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委任者が破産した場合の受任者の債権
委任者について破産手続が開始された場合に、受任者の債権は、次のように取り扱われる:
破産手続前の事務処理に基づく受任者の債権 | 破産債権 |
破産手続後の事務処理に基づく受任者の債権 | 原則として破産財団はなんらの弁済義務もない。
ただし、民法655条、破産法148条1項6号は例外。 |
(委任契約)
第五十七条 委任者について破産手続が開始された場合において、受任者は、民法第六百五十五条 の規定による破産手続開始の通知を受けず、かつ、破産手続開始の事実を知らないで委任事務を処理したときは、これによって生じた債権について、破産債権者としてその権利を行使することができる。
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保証委託契約
保証委託契約は、受託者が債権者と保証契約を締結することを内容とする委任契約。
保証委託契約が有償の場合(保証料の定めがある場合)、受任者は、委任者が債権者から代保証人を立てることを要求されないように、保証人として必要な資力を維持する義務(保証人能力維持義務)も負う。
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委任者の破産
保証委託契約は委任者の破産手続開始により将来に向けて終了する。
締結済の保証契約は影響を受けず、受託者(保証人)から委任者に対する将来の求償権も影響を受けない。
保証契約が未締結の場合、受任者の保証契約締結義務は当然に消滅する。
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破産手続開始前の保証
将来の求償権の担保として、委任者の財産を受任者に提供する場合がある。
破産手続開始の開始により保証債務が履行されるが、受任者(保証人)の求償権は破産者(委任者)の財産から優先弁済される。破産財団からの弁済であるが48条の適用はない。担保権の実行だからである。
委任者が弁済資金を提供していて、その資金の返還請求権について担保権の明示的な設定がない場合には、決済資金の返還請求権と償還請求権との相殺という構成になる。
実質的にみれば、主債権者は、保証人を通して破産者の財産に担保を有していたのであり、彼が保証人を通して破産手続開始後に破産者の財産から満足を得たことは、48条の適用対象にはならない。
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破産手続開始後の保証
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保証契約
保証契約は片務無償契約であるり、委任契約ではない。
しかし、主債務者の委託を受けない保証にあっては、債権者が保証人に債権残高に応じて定期的に保証料を支払う保証契約もあり得る。これは双務有償契約であり、一方当事者に破産手続が開始された場合の取扱いが問題となる。
元本1億円が5年後に一括償還され、利息が半年ごとに支払われる債権の保証契約において、3年間の保証料総額が元本の5%(500万円)で、その内の60%(300万円=250万円+50万円)が契約時に支払われ、残りの40%(200万円)が契約時から1年経過ごとに10%(50万円)づつ4回支払われることが約定されていて、かつ、保証料の不払いは保証契約の効力喪失を当然にもたらすとされているものとしよう。
主債権者が破産した場合
この場合には、破産管財人は、被保証債権をどのように換価するかを考慮して、保証契約を解除するかいなかを決定することになる。
(a)被保証債権の弁済期の到来が先のことであり、債権譲渡の方法で換価せざるを得ない場合には、保証料の支払負担付きで譲渡する方が有利であれば、保証契約を解除することなく保証契約とともに主債権を譲渡することになる。特に景気が悪化して主債務者の弁済能力に不安がささやかれるような場合には、この選択肢がとられよう。
(b)他方、何らかの事情で債権譲渡の方法で換価することが困難である場合に、例えば最終回の保証料(保証契約のときから4年目に支払う50万円)の支払時期が差し迫っているが、破産管財人が保証料の支払を節約すべきであると判断した場合に、どうするかが問題となる。(b1)単純に保証料を支払わなければ、保証契約は効力を喪失することは認めざるをえないであろう。保証債権は破産財団所属債権であるが、最終回の保証料債権は破産債権になるだけであるというのは、この保証契約が双務有償契であるとの性質に反するからである。(b2)では、破産管財人が破産法53条により解除すれば、どうなるであろうか。解除の効果をどのように定めるのかが問題となる。保証人はすでに経過した期間について主債権の貸倒れリスクを引き受けてきたのであり、過去における貸倒れリスクの引受けについて原状回復をすることは不可能である。その意味で、この保証契約は一種の継続的契約である。解除の効果は非遡及的であり、過去の期間についての保証料債権を消滅させることはできない。しかし、保証料は、5年間にわたって等分に支払われるべきものであり、1年あたりの正当な保証料額は100万円であると考えると、契約当初に支払われた保証料額300万円のうちの200万円は後年度の保証料の前払いと評価できることになる。そのように評価されれば、前払いされた保証料の内の未経過年分の50万円は、53条による解除の原状回復として返還請求することができるとする余地も出てこよう。もっとも、そのよような解釈が定着しているわけではないから、現時点では未解決の問題とせざるを得ないが、53条により解除すればその余地が出てくることは認めてよいであろう。
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保証人が破産した場合
(a)最終回の保証料の支払後に保証人について破産手続が開始された場合には、主債務者についても破産手続が開始されているか否かにかかわらず、主債権者は、主債権相当額の保証債務履行請求権を破産債権として届け出ることができる(保証が連帯保証であるか否かにも関連して、適用法条については見解が分かれるところであるが、103条3項・104条1項・105条の適宜の組合わせによる)。
(b)最終回の保証料支払時期以前に保証人について破産手続が開始された場合には、双方未履行契約として、破産管財人は契約を解除することができるか?
・解除の遡及的効力はない。保証契約が継続的契約であることと矛盾する。
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管財人が保証契約の解除を選択した場合
保証契約は将来に向けて終了する。
・破産者の相手方は弁済期未到来の保証料支払義務を免れる。
・しかし、保証人は保証債務を免れない。なぜなら、通常の保証契約では、保証債務は保証契約のときに発生し、保証人について破産手続が開始された場合には、破産債権として行使することができることとのバランス。
管財人は履行を選択する。
(β)解除は保証債務を消滅させる効力を有しないとする選択肢をとった場合には、破産管財人は履行を選択することになるが、その場合には、破産管財人は最終回の保証料支払請求権を財団所属債権として行使することができることになろう。しかし、それでは、主債権者にとっては、保証債務について完全な履行がなされないにもかかわらずその対価を支払わなければならないという不合理な帰結になる。これは双務契約の性質に反する。この選択肢は採用できない。
上記のように、今は、妥当な解決が見いだされていない状況である。
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別除権(65条1項)
別除権は、担保財産の帰属主体について破産手続が開始されても、担保権が次の2つの基本的な点で影響を受けないことを示す概念であり、(α)担保権を破産手続外で行使できる権能[10]、あるいは、(β)破産財団に属する担保財産から優先的満足(別除的満足)を受ける権利を意味する(破産法がいずれの意味で用いているかは、2条9項・65条1項からは確定しがたい)。こうした権利が認められる担保権は、破産法では、「別除権に係る担保権」と呼ばれており(108条1項本文)、「別除権」と「別除権に係る担保権」とは別個の概念である[12]。しかし、講学上は、「別除権に係る担保権」も「別除権」と呼ばれることが多い(一種の省略表現である。[中島*2007a]290頁は、別除権は「実質的には担保権そのものである」という)。
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相殺(67条1項)
67条(相殺権)
1 破産債権者は、破産手続開始の時において破産者に対して債務を負担するときは、破産手続によらないで、相殺をすることができる。
2 破産債権者の有する債権が破産手続開始の時において期限付若しくは解除条件付であるとき、又は第百三条第二項第一号に掲げるものであるときでも、破産債権者が前項の規定により相殺をすることを妨げない。破産債権者の負担する債務が期限付若しくは条件付であるとき、又は将来の請求権に関するものであるときも、同様とする。
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相殺の要件
①破産手続開始時に破産者に対して債務を負担すること(67条1項)
②相殺制限を受けないこと(71条、72条)
③相殺に供する債権が否認対象ではないこと(最高裁昭和41年4月8日判決)
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相殺が許容される根拠
相殺権の担保的機能により説明されることがあるが、適切ではない(意図しない債権取得の相殺を説明できない)
したがって、相殺による優先的債権回収が許される根拠は「当事者間の公平」である。すなわち、破産手続開始時に破産者に対して債権者兼債務者である者が、自己の債務は全額履行しなければならないのに、自己の債権は破産財団から不十分な満足しか得られないという不公平の回避である。([注釈*2006a]442頁(中西正)参照)。
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解除条件付債権(69条)
第69条(解除条件付債権を有する者による相殺)
解除条件付債権を有する者が相殺をするときは、その相殺によって消滅する債務の額について、破産財団のために、担保を供し、又は寄託をしなければならない。
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停止条件付債権(70条前段)
第70条(停止条件付債権等を有する者による寄託の請求)
停止条件付債権又は将来の請求権を有する者は、破産者に対する債務を弁済する場合には、後に相殺をするため、その債権額の限度において弁済額の寄託を請求することができる。敷金の返還請求権を有する者が破産者に対する賃料債務を弁済する場合も、同様とする。
停止条件が成就するまで、又は将来の請求権が現実化するまで、相殺できない。破産債権者は財団に対する債務を弁済しなければならない。ただし、破産手続開始時に停止条件未成就の債権でも、最後配当の除斥期間内に条件が成就すれば、これを自働債権にして破産財団所属債権と相殺することが可能である(その後に成就した場合には、相殺できない)。その場合に備えて、破産債権者は、弁済に解除条件を付し(停止条件成就後に相殺することを解除条件とし)、自己の債権の金額の限度で弁済額の寄託を破産管財人に請求できる(70条。198条2項も参照)。
(α)寄託の請求は、弁済に解除条件を付す意思を包含している([伊藤*破産v4.1]348頁注77参照)[6]。
(β)停止条件成就後の相殺によりこの解除条件が成就し、弁済金返還請求権は、148条1項5号の財団債権になる。
(γ)弁済金が破産管財人により現実に寄託されている(寄託物として分別管理されている)場合には、その寄託金は、破産財団中の特別財産を構成し、財団不足のときには、当該寄託金に関しては、弁済金返還請求権は他の財団債権に優先する(寄託請求にもかかわらず寄託されていなかった場合には、破産管財人は、債権者に対して損害賠償義務を負う(85条2項))。
(δ)寄託請求がなされていない弁済金については、停止条件成就後の相殺を理由に返還を請求することはできない[CL5]。
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敷金返還請求権(70条後段)
賃貸人が破産した場合に、賃借人が有する敷金返還請求権は破産債権となり、その処遇が問題となる。敷金返還請求権は、賃借人が建物を明け渡した後で、賃借人の未履行債務額を控除した残額の返還を求めることができる請求権である。明渡しという一定の時期が到来して初めて、債権の存否および額が確定するという特質があるので、停止条件付債権の一種として[4]扱われる(70条後段)。現行法は、破産手続開始後の賃料債権の処分を有効としたことに対応して[2]、賃借人が手続開始後の賃料債権と敷金返還請求権とを相殺することも認めている。賃借人は、敷金返還請求権の履行期が到来する前にあっては、返還を請求することができる最大額の範囲で、自己の弁済額の寄託を請求することができる。
上記の処理の妥当範囲について、場合分けをしながら検討してみよう。
賃借人が破産手続中に建物を明け渡して敷金を返還請求する場合には、上記の処理が妥当する。
破産手続中に建物が賃借人の責めに帰すことのできない事由により滅失した場合も同様である。例えば、賃借人が返還請求することができる敷金額が賃料の10ヵ月分である場合に、賃料弁済金の寄託請求をしてから3ヵ月後に建物が賃借人の責めに帰すことのできない事由により滅失して賃貸借が終了したときは、寄託された3ヵ月分の賃料債権と敷金返還請求権との相殺が可能である。寄託された3ヵ月の賃料の返還請求権のみが財団債権となり、敷金返還請求権のうち相殺に供されなかった部分は、破産債権になる(敷金全額を財団債権とすることとの違いは、こうした点に現れる)
賃貸借の継続中に破産管財人が賃貸建物を賃借権付のまま売却すれば、敷金返還債務は買受人に承継されるので、相殺の余地もない。寄託金は、配当等に回される。ただし、買受人に承継される敷金額分だけ建物の売却価額は低下する。
破産手続中に先順位抵当権に基づいて賃貸不動産が競売された場合には、賃借人は買受人に対して賃貸借契約を主張し得ず、これに付随する敷金契約に基づく敷金返還請求権も主張し得ない。この場合には、敷金は破産者から返還されるべきであるから、建物明渡し前であっても、解除条件付弁済のなされている賃料債権との相殺を認めるべきである。
破産手続開始後の賃料債権が譲渡されていた場合
破産手続開始後の時期に係る賃料債権が開始前に譲渡されていた場合にも70条後段の適用があるかについては、見解は分かれよう。
(a)否定説 [小川*2004a]92頁は、次のように述べる。「寄託請求は、破産者に対して弁済する場合に、破産財団に弁済金が入るのに対応して寄託を請求するものであり、したがって、既に賃料債権が譲渡されており、賃借人が譲受人に対して弁済する場合には、寄託請求の要件を満たさない」。
この見解が、賃料債権が譲渡された場合には、賃借人の敷金返還請求権は保護されないという趣旨を含むものであるかは判然としないが、賃借人の敷金回収方法について何の言及がなされていないことを考慮すると、そのように理解せざるを得ない。
(b)肯定説 しかし、賃借人は、将来賃貸人が破産した場合には70条後段の方法により敷金を回収することができるという地位を賃貸借契約締結時に有しているのであり、その地位が賃貸人による賃料債権譲渡という賃借人の関与しない行為により否定されてしまうというのは、不当である。破産法70条後段の規定により賃借人に認められた相殺権は、賃貸借契約が効力を生じた時点で賃借人が取得した将来の相殺権であり、民法468条2項にいう「譲渡人に対して生じた事由」と解すべきである。したがって、賃料債権の譲渡にかかわらず、賃借人は賃貸人について破産手続が開始された後は、70条の規定により破産管財人に弁済して、その寄託を請求できると解すべきである。賃料債権の譲受人が取得した債権は、そのような留保のついた債権と解すべきである[5]。もちろん、譲受人がこれにより受ける不利益の賠償請求権は、破産債権として行使できる。
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保証金返還請求権等
区分 | 本来の目的 | 明渡時に返還 | 賃貸不動産の取得者への承継 |
敷金 | 賃料等の担保 | ◎ | ◎ |
その他の保証金(本文のb) | 賃料等の担保 | ◎ | × |
建設協力金(本文のa) | 建設資金の融資 | × | × |
敷金とその他保証金は、賃貸不動産の譲渡により保証金返還義務が新所有者に承継されるか否かで区別される。
(a)建設協力金のように消費貸借の性格の強い資金の返還請求権は、停止条件付債権というより、期限付債権であり、賃借人はそのようなものとして相殺に供することができる。
(b)保証金のうち、賃料等の担保目的を有し、かつ、返済期が賃貸借契約終了後の明渡時とされているが、金額の大きさ等のために敷金とは評価されないもの。
第1は、70条本文の停止条件付債権として扱うことである。この場合には、破産管財人に建物を明け渡さない限り、相殺できない。建物が譲渡されずにいて、賃貸借契約が破産管財人の下で終了するときには、それでも問題はない。他方、建物が他に譲渡された場合に、賃借権が対抗要件を具備していて譲受人の下で賃借権が存続するとき、この保証金の返還請求権を建物の譲受人に対して行使することができなくなるので、譲渡の時点で保証金返還請求権の履行期が到来したと解すべきであろう。
第2は、金額と履行期が不確定な破産債権として扱いことである。この場合には、破産手続開始時の評価額でもって相殺に供することを認められる。 破産管財人が賃貸建物を譲渡するか否かは、破産手続終了時(最後配当の除斥期間の満了時)までに確定することであり、その時までには、賃借権の帰趨(破産管財人の下で終了するか、建物の譲受人の下で存続するか)も確定するのであるから、Aの処理でよいであろう。
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保険契約の解約返戻金請求権
保険契約者が破産した場合、破産管財人は、通常、保険契約を解約して、解約返戻金を破産財団に組み入れる。この解約返戻金請求権は、解約を停止条件とする債権と考えられる。保険者が破産者に対して貸付等をしていた場合には、保険者は、解約後に貸金債権と相殺することができるのはもちろんであるが、解約以前に停止条件不成就の利益を放棄して、条件が成就したものとして相殺をすることもできる。ただ、保険者によるこの相殺の意思表示がなされた後で、破産管財人が保険契約について解約の申し入れをする前に、保険事故が発生した場合には、解約返戻金請求権は発生せず、保険金請求権が発生してしまう。その場合には、保険金請求権と貸付金債権とを相殺することができるとするのが合理的である。したがって、保険契約に基づき、保険契約者は、次の停止条件付債権あるいは解除条件・期限付債権を有し、そのうちの少なくとも一つは生ずるのであるから、保険者は、これらの請求権の発生が未確定な間でも、これらのうちで発生時期の早い請求権と貸付金債権とを相殺することができると解すべきである。
保険金請求権
解約返戻金請求権
満期返戻金請求権
この問題は、相殺権の行使に時期的な制限が課せられている民事再生手続及び会社更生手続において一層重要な問題となろう。
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金融機関による借入金と預金の相殺
http://www.kinyu-bengoshi.com/qayuushi6.html
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法律上の原則(民法505条1項)
相殺の要件は、
①二人が互いに債務を負担すること
②両債務が同種の目的を有すること
③両債務が弁済期にあること
④両債務が性質上相殺を許さないものではないこと
金融機関と債務者企業の間の借入金と預金は、①②④の要件をまず充たします。
借入金の弁済期が到来していないなど債務者企業に期限の利益(約定返済を各約定期日到来まで待ってもらえる利益。同法136条)がある場合には、③の要件を充たさないので金融機関から相殺をすることはできません。したがって、長期約定返済の1回を延滞しただけでは、残借入金全額の期限の利益が喪失されるわけではありませんので(同法137条参照)、残借入金と預金とを相殺することはできません。
なお、定期預金の満期が到来していない場合も③の要件を充たさないようにみえますが、これは金融機関に与えられた期限の利益であり、金融機関はこれを自由に放棄することが可能ですから(同法136条2項)、定期預金の満期未到来については③の要件の妨げにはなりません(大審院昭和9年9月15日判決)。
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金融実務
金融機関からの融資においては、通常この原則は当事者間の合意により修正されており、この原則通りに処理されることは実際はほとんどないと言ってよいです。
当事者間の合意とは、融資の際に締結される銀行取引約定書(銀取約定)や金銭消費貸借契約証書の各条項をいいます。
銀取約定等には、以下のような条項がある。
第1条(期限の利益の喪失)
債務者について次の各号の事由が一つでも生じた場合には、債権者からの請求によって、債務者は債権者に対するいっさいの債務について期限の利益を失い、直ちに債務を弁済する。
(1)債務者が債権者に対する債務の一部でも履行を遅滞したとき。
(2)・・・
第2条(相殺、払戻充当)
期限の到来、期限の利益の喪失、買戻債務の発生、求償債務の発生その他の事由によって、債務者企業が金融機関に対する債務を履行しなければならない場合には、金融機関は、その債務と債務者企業の預金その他金融機関に対する債権とを、その債権の期限のいかんにかかわらず、いつでも相殺することができるものとします。
第3条(相殺、払戻充当)
前項の相殺ができる場合には、金融機関は事前の通知および所定の手続を省略し、債務者企業にかわり諸預け金の払戻しを受け、債務の弁済に充当することもできます。この場合、金融機関は債務者企業に対して充当した結果を通知するものとします。
第1条ににより、長期約定弁済のうち1回でも約定返済を延滞したときは、金融機関からの請求(「期限の利益喪失通知書」などという書面が内容証明等で交付されます。)により、債務者企業は期限の利益を失うことになります。これにより③の要件も充たし相殺適状となれば、金融機関は借入金と預金を法定相殺することができます。
第2条による約定相殺(相殺合意、相殺予約)についても判例上有効であると認められています(最高裁昭和45年6月24日判決)。
相殺の手続については、「相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。」(同法506条1項第1文)とされており、金融機関から債務者企業に対し相殺の通知が発せられます。
第3条により、相殺と同様の効果を得るものとして、払戻充当の方法が規定されています。これにより、金融機関は、約定相殺ができる場合には、債務者企業から委任を受けたものとして債務者企業の預金を払い戻し、これを借入金の弁済に充当することができることになります。
以上の通り、債務者企業は、約定返済の1回でも延滞した場合には、いつでも残借入金全額を預金と相殺ないし払戻充当をされうる状況に置かれることになります。
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配当原資(破産財団)の用意(整理・換価)
整理された財産をすべて金銭に換えて(184条以下)、配当原資(配当財団)を用意する。
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破産財団の整理
現実財団と法定財団は、食い違うことがある。管財人は、両者が合致するように整理する。
・破産管財人から第三者への返還請求
・第三者から破産管財人への取戻権(62条以下)
・未解決の法律関係を解決する(52条以下)
・破産財団に属する債権を実現する(184条以下)。
・破産管財人は、破産手続開始前の不当な財産流出を否認して、破産財団を増殖させる(160条以下)
・財団債権を随時弁済する。
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破産前債権譲渡と破産宣告(破産者がその有する債権を第三者に譲渡した場合)
破産者が破産前に有していた債権の取り合い(破産管財人vs債権譲受人)
破産宣告時点と対抗要件具備の先後で決する。
最高裁昭和58年3月22日第三小法廷判決(集民138号303頁,判例時報1134号75頁・倒産判例百選第4版36頁)
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契約解除
http://www.asahi-net.or.jp/~mj3t-hsm/hasan3.PDF
破産者の債務不履行を理由として,契約の相手方が破産手続開始決定後に契約を解除しても,解除の効果を破産管財人に主張できない。破産管財人は,民法545条1項ただし書きの第三者に該当することがその理由である。なお,不動産の売主が,買主である破産者の債務不履行を理由として売買契約を解除した後に買主について破産手続が開始されたときは,民法177条の適用問題となる。不動産の売主は契約解除により自己に復帰した所有権を破産管財人に対抗できない。
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破産債権の確定(111条以下)
破産債権とは、破産財団から配当を得ることができる債権のこと。破産手続開始前に原因のある債権(100条・2条5項)
STEP1:債権者は、破産債権を裁判所に届け出る(111条以下)。
STEP2:書面による破産債権の調査(117条)および期日における破産債権の調査(121条)
STEP3:破産管財人が認め、他の届出済債権者が異議を述べなければ、破産債権の存在・内容が確定する(124条1項)。
破産裁判所に対する破産債権査定申立による破産債権査定決定(125条)
破産債権査定異議の訴え(126条、131条)
破産手続開始当時に係属中の訴訟は、その訴訟を債権確定のための訴訟として続行する(127条1項・129条2項)。
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否認権(160条以下)
否認権とは、破産財団に属すべき財産が破産手続開始前に不当に流出した場合に、破産管財人はそれを否認して無効にすることができる。
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偏頗行為(特定の債権者への弁済行為等);債権者間の平等を害する財産流出を主たる対象とする
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詐害行為(財産減少行為)(160条)
1項1号(故意否認) 自己の行為が破産債権者を害することを破産者が知りながらした行為。
1項2号(危機否認) 破産者が支払停止等の後にした破産債権者を害する行為
3項(無償否認) 破産者が支払停止等の後又はその前6月以内にした無償行為又はこれと同視すべき有償行為
1項1号(故意否認) | 1項2号(危機否認) | 3項(無償否認) | |
詐害行為の特質 | 限定無し | 限定無し | 無償行為・準無償行為 |
行為時期 | 限定無し | 支払停止後の後 | 支払停止等前6月より後 |
破産者の詐害意識 | 必要 | 不要 | 不要 |
受益者の善意による例外 | 行為の詐害性を知らなかった場合 | 支払停止等のあったことおよび行為の詐害性を知らなかった場合 | なし |
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偏頗行為の否認(162条)
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義務無く提供された保証は無償行為として否認されるか?
最判昭和62年7月3日は、否認対象とする。
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配当(193条以下)
配当表(配当原資、各債権の債権額、配当額を記載)を作成
異議を述べる機会を与え、異議を解決した上で、配当表に基づいて配当する(196条以下)。
配当は、破産財団所属財産の換価が完了する前でも、配当に適する金銭が得られた段階で適宜行うことができる(209条1項)。
換価完了段階の配当を最後配当といい(195条)、これに接続して破産手続終結決定がなされる(220条。なお、最後配当に代わるものとして簡易配当、同意配当の制度がある)。最後配当の前になされる配当を中間配当と言う(209条以下)。最後配当の配当額の通知後に配当に適する金銭が得られた場合には、最後配当表を基に、追加配当がなされる(215条以下)。
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賃貸借契約と破産
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倒産解除特約は、破産法53条1項に基づく解除の場合も適用されるか?
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問題の所在
破産法その他の倒産法には、通常の解約とは異なる倒産法独自の解除権があります。しかも、これは破産管財人にしか認められていませんので、その相手方には解除権がありません。そして、破産管財人に、この独自の解除権を行使された場合、先の違約金条項の適用があるのかが問題になる。
その条項の適用はないと考えるのが多数説のようです。私も同感です。
ですので、破産管財人が独自の解除権行使をした場合、理論的には6か月の賃料相当の損害金は請求できません。ということは、これと敷金や保証金との相殺(充当)ができないということになりますので、敷金や保証金に、未払賃料と原状回復費用を控除した残金がある場合には、破産管財人に返還する必要があります。
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東京地裁平成21年1月16日判決
http://ameblo.jp/nishigawa0323/entry-11626334836.html
事例は、賃借人破産の場合において、破産管財人が破産法53条1項に基づいて賃貸借契約を解除した上、賃貸人に対して敷金返還請求をしたところ、違約金請求権との相殺が主張されたというものです。
この事案では、
① 賃貸人は賃借人に破産手続開始その他倒産手続の申立があったときは何らの催告なしに契約を解除できる
② ①の理由により契約が解除された場合、賃借人は違約金として賃料の6か月分相当額を賃貸人に支払う
との特約がなされていました。
しかし、上記東京地裁判決は、次のとおり述べて、違約金請求権との相殺を否定する判断をしました。
「…被告は、平成19年9月18日、本件契約書21条1項3号に基づき本件契約を解除する旨の意思表示をしたのであるが、同契約条項は、平成16年法律第76号により当時の民法621条が削除された趣旨(賃借人の破産は、賃貸借契約の終了事由とならないものとすべきこと)及び破産法53条1項により破産管財人に未履行双務契約の履行・解除の選択権が与えられている趣旨に反するものとして無効というべきであるから、同契約条項に基づく上記解除もまた無効というべきである。
…本件契約書20条3項は、賃借人が賃料・共益費6か月分を支払うことにより本件契約を解除し得るとする趣旨であると解され、他の事由による本件契約の終了時にも賃借人が違約金を支払うべきことを規定したものであるとは解することができない。そうすると、…本件契約は、X管財人と被告との間で合意解除されたもの又はX管財人が破産法53条1項に基づき解除したものであるから、いずれにしても本件契約書20条3項が適用される場合に該当しないことは明らかであり、原告が被告に対し同条項に定める賃料・共益費6か月分の支払義務を負うべき理由はない。」
この判例を前提とすると、せっかく賃借人が破産した場合に備えて契約書に解除条項を入れておいても無効になってしまうわけですから、賃貸人には酷ですね。違約金条項の効力を正面から判断した方が良かったんじゃないでしょうか。
http://www.toben.or.jp/message/libra/pdf/2005_04/2005_04_37.pdf
http://www.maedalo.jp/maeda/bankruptcy-law/
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賃貸人が民事再生・会社更生の場合
賃貸人が民事再生・会社更生の場合においては、各法において従来準用していた改正前破産法63 条、103条が削除されたため、破産の場合と同じく、賃料の処分等・相殺の制限はなくなった。ただし、破産の場合とは異なり、今般の改正により、相殺ができるのは、手続開始後に弁済期が到来すべき賃料債務のうち、手続開始時の賃料の6 ヶ月分相当額の限度内のものに制限され、また、相殺されなかった場合には、同限度内の敷金が共益債権化されることとなった(民再92 条2項3 項、会更48 条2 項3 項)。(法律研究部倒産法部 小林信明)
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倒産解除特約の適法性
倒産解除特約とは、テナントが倒産(破産、民事再生、会社更生)した場合、オーナーが賃貸借契約を直ちに解除できるとする条項のこと。
会社更生 | ×否定(会社更生法61条の趣旨)(最高裁第三小法廷昭和57年3月20日判決) |
民事再生
※再建型であるが担保権の扱いが会社更生とは異なる |
×否定(最高裁平成20年12月16日判決、フルペイアウト方式によるファイナンスリースの事例)
「・・・担保としての意義を有するにとどまるリース物件を、一債権者と債務者との間の事前の合意により、民事再生手続開始前に債務者の責任財産から逸出させ、民事再生手続の中で債務者の事業等におけるリース物件の必要性に応じた対応をする機会を失わせることを認めることにほかならない」とし、同特約を「民事再生手続の趣旨、目的に反するものとして無効」 ×否定(秋田地方裁判所平成14年4月4日判決) 双方未履行の双務契約の履行・解除選択権を定めた民事再生法49条1項の趣旨、事業再生という民事再生法の趣旨・目的 |
破産 | ×否定(東京地裁平成21年1月16日判決)
賃借人の破産が賃貸借の終了事由とされていた旧民法621条が削除された経過、破産法53条1項により破産管財人に双方未履行の双務契約の履行・解除選択権が与えられている趣旨に反する。 |
倒産解除特約は、こうした最高裁、下級審を含めた判例が存在するにもかかわらず、依然として、賃貸借契約その他の各種契約に挿入され続けています。今後は、こうした判例を踏まえて契約実務を見直す動きがみられる可能性もあり、注目されます。
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最高裁第三小法廷平成20年12月16日判決の射程
民事再生手続の趣旨目的から解除特約の無効を導く本判決からすれば、賃貸借契約等他の契約中の解除特約についても同じく民事再生手続の趣旨、目的に反するとして無効と解されるものと考えます。
なお、本判決では、田原睦夫裁判官が、倒産申立て解除条項と弁済禁止の保全処分との関係について、私見として補足意見を述べられております。同補足意見では、「本判決の結論は、再生債務者がリース料金を滞納した場合のリース契約の解除の可否には、当然ながら何らの影響を及ぼすものではな」く、債務不履行解除は可能であることを確認されるとともに、かかる債務不履行解除と弁済禁止の保全処分の申立てがなされ、その決定を得た場合の手続きの流れ(「弁済禁止の保全処分は開始決定と同時に失効するので、再生債務者は、リース料金について債務不履行状態に陥ることとなる。したがって、リース業者は、別除権者としてその実行手続としてのリース契約の解除手続等を執ることができることとなる。そして、再生債務者は、民事再生手続の遂行上必要があれば、これに対し、担保権の実行手続の中止命令(同法31条1項)を得て、リース業者の担保権の実行に対抗することができると考える」)等について述べられており、実務上参考となります。
http://www.clo.jp/img/pdf/news_55_09.pdf
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預かり保証金(現金担保)は別除権に該当するか?
当社は取引時に現金担保を預かっています。ある日、取引先が破産手続開始したため、裁判所より破産債権届出書の提出を求められております。当社債権債務状況は、債権300(手形債権200 売掛金100)、預かり保証金250です。届出書の債権記入欄の項目の一つに「別除権の有無」があります。当社債権債務状況の場合、手形債権及び売掛金は「別除権有り」という解釈で良いのでしょうか?本当にシロウトな質問で申し訳ございません。
保証金を受け入れる際の契約書に期限の利益喪失条項がありませんか?
いずれも金銭債務ですから相殺後の残額を債権届に記入するのがフツーです。
http://blog.wisdom-law.com/archives/6441440.html
実務で、破産法関連の仕事をする場合、一番役立つのが、東京地裁破産実務研究会著の『破産管財の手引き』(きんざい、平成23年6月)という書籍です。この種のいわゆる実務本は世に沢山存在しますが、この本は、破産手続を運用している裁判所の裁判官と書記官が集まって書いた本ですので、役に立つのは当然です。
しかし、同じような本を大阪地方裁判所第6民事部(破産部)も書いています。こちらは、『破産・個人再生の実務Q&A はい6民ですお答えします』(大阪弁護士協同組合、2008年)という名称です。ただ、この大阪地裁第6民事部の本は、結構チャレンジングです。先日、ちょっと“おやっ”と思った記述を見つけたので紹介します。
たとえば、クリーニング屋を営むA社が、B社から、ビルの1階を借りて店を出していたとします。A社は、このところの不況のあおりを受けて破産してしまい、A社の破産管財人が選任されたとします。破産管財人がまずやるべきことは、破産法第53条第1項に基づきB社との賃貸借契約を解除して、お店の原状回復工事を行って、速やかにB社にお店を明け渡して、A社がB社に差し入れている敷金を回収することでしょう。ただし、未払い賃料があれば敷金から控除されることになりますし、また、破産管財人が自ら原状回復を行わず、賃貸人にやってもらった場合にも原状回復費が敷金から控除されることになります。これは、敷金とは、賃貸借契約に基づき賃借人が負担すべき一切の債務を控除し、残額があれば賃借人に返還するという賃貸人側の担保だからです(最判昭48・2・2民集27-1-80)。担保権は、そもそも相手の経済状態が危機的な状態に陥ったときに最も効果を発揮しなければならないものですので、相手方が破産に陥ったとしても、担保権者は破産手続きの影響を受けずに自由に行使することが認められています(破産法第65条第1項参照)。
ただ、ここで問題があります。最近の賃貸借契約書の中には、賃借人側の事情で賃貸借契約が解除された場合、賃料の6ヶ月分とか1年分(さらには定期建物賃貸借契約の場合などには残期間)の賃料額に相当する違約金を支払わなければならないことが規定されていることがあり、この違約金を敷金から控除できるか?であります。
これがもし認められることになると、上記の例でいうと、B社(賃貸人)は、敷金から未払賃料や原状回復費のみならず、賃料の6ヶ月分とか1年分の違約金も控除することができるので、とても有利な地位に立つことになります。逆にいえば、A社(賃借人)の破産管財人は、違約金分敷金の回収が減ることになりますので、あまり嬉しくありません。
このような問題は、賃借人が破産に陥っていない場合にもしばしば問題になって判例に現れています。賃借人が破産に陥っていない場合のこの問題の回答は、次のようなものでしょう。すなわち、この種の違約金条項は、損害賠償の予定(民法第420条第3項)として有効であり、裁判所は、その金額が多いとか少ないとか口出しできないはずである(同条第1項第2文参照)。しかし、この種の違約金条項は、賃借人側の事情で突然賃貸借契約が終了し、次のテナントが決まるまでに賃貸人が被る有形・無形の損害をカバーしようとする趣旨のものであるから、あまりにも過大なものについては、公序良俗(民法第90条)に反するとして無効又は一部無効になる可能性がある。(私の知る限り、この問題について、最もわかりやすく解説されているのは、西村総合法律事務所〔現西村あさひ法律事務所〕編『ファイナンス法大全(下)』(商事法務、2003年10月)571頁~575頁〔小澤英明執筆部分〕ですので、ご一読をお勧めします。)。
そして上記の結論は、賃借人が破産しているか否かによって異ならないはずです。
なぜなら、敷金の設定やそれに何をカバーさせようとするかは、賃貸人と賃借人間で自由に決めるべき問題ですし、敷金には担保という側面がある以上、破産手続きが開始されなければ違約金を控除でき、破産手続きが開始されていれば控除できないというのでは、前述のとおり、担保権については破産手続きの影響を与えないとする破産法の建前(破産法第65条第1項参照)とは合致しないと考えられるからです。
また、破産手続が開始されたケースでよく問題とされるのが、他の債権者との公平という観点(「破産手続における債権者平等の観点」とも言われます。)ですが、敷金という枠の中での話ですので、その枠内では、担保権者である賃貸人を優先させてかまわないでしょう。そもそも未払賃料や原状回復費が多ければ、敷金は残らない運命ですし、枠が設定されている以上、他の債権者の予見可能性を害するということにもなりません。
問題なのは、暴利といえるくらい違約金が多い場合ですが、そのような場合には、公序良俗違反(民法第90条)として制限すれば十分だと思います。
さらに、当事者が自由な意思で決めた違約金条項を、破産手続きの開始を理由に無効(又は一部無効)などと解釈するとすれば、法的な予見可能性を害し、たとえば不動産の証券化などにおけるスキームの構築の阻害要因にもなるのであって、間接的な弊害も大きいということができます(これは本当です。)。
おそらくこの種の違約金条項の効力を否定したいと考える論者の頭の中には、賃貸人=社会的強者であり、賃借人=社会的弱者であって、賃貸人が社会的強者の立場で不当な違約金条項を押し付けているというようなイメージがあるのかもしれませんが、もはや都心の一等地でも半年のフリーレント(賃料なし)等の条件を提示しなければ借りてもらえない時代がきておりますので、そのような認識は時代遅れであると思います。
ところが、大阪地裁第6民事部の『はい6民です』は、(私から見ると)かなり「思い切った解釈論」(皮肉です。)を展開します。
まず、破産管財人の有する(双方未履行双務契約についての)破産法第53条の解除権について、伊藤眞教授の説を引用して、「破産法第53条1項は、契約の相手方による不利益を受忍させても、破産財団の維持、増殖を図るために、破産管財人に上記のような法定解除権を与えたものと解されます」などという基本的な発想に立ち、「破産管財人が破産法53条1項に基づく解除権を行使する場合には破産者にとって不利な契約条項には拘束されないものと解することによって初めて、上記のような法の趣旨を実現することが可能になるものと解されます。」、「当部では、破産管財人が破産法53条1項に基づいて賃貸借契約を解除した場合には、当該賃貸借契約中の違約金条項の適用はないものと解しています。」(149頁)というのです。
そのため、今何が起きつつあるかというと、テナントについて破産情報が流れたら、賃貸人において、(破産管財人と交渉する前に)いち早く、解除通知を出す、などという馬鹿げた運用です。賃貸人としては、賃貸借契約書中の違約条項の適用を排除されたくないため、破産管財人から解除される前に、自ら(賃料未払い等を理由に)解除権を行使せざるをえないのです。
しかし、そもそも破産管財人と賃貸人のどちらが先に解除権を行使したかにより、契約書中の違約金条項が適用されるか否かが決まるのは、何か変だ!と言わざるを得ません(そもそも多くの場合、破産管財人自身が倒産情報に一番早く正確にアクセスしていると思われますので、早い者勝ちにすると破産管財人が圧倒的に有利です。)。
次に、破産管財人が破産法第53条第1項の解除権を行使した場合、賃貸人は、破産法第54条第1項により、破産債権者として損害賠償請求権を行使できますが、この損害の範囲について、『はい6民です』は、違約金条項が反映されないように解釈します。
どのように解釈するかというと、「その範囲については、明文が存在しない以上、破産管財人の解除によって相手方が現に被った損害の限度で賠償請求権が生じるにすぎないものと解されます(具体的には、破産管財人が賃貸借契約を解除して賃借物を明け渡してから、新たな賃借人との間で賃貸借契約が締結されるまでの間の賃料相当額が、賃貸人の現に被った損害として観念できるのではないかと思われます。)」(150頁)などというのです。
しかし、賃貸借契約の当事者は、将来この損害が具体的にいくらになるのかが不明確であり、契約時に確定しておきたかったから違約金条項を規定したのです。違約金条項があるから賃料を低額に設定できる面もあるのであって、違約金条項の有効・無効がはっきりしないとすると、結局それは賃料に転嫁せざるを得ず、賃借人自身の首を絞めている面もあるのです。このような解釈は、契約自由の原則に対する過度な制約というべきでしょう。
さらに、『はい6民です』の思い切った解釈は続きます。
前述のとおり、破産管財人が破産法第53条第1項の解除権を行使して、賃貸借契約を解除しても、賃借人は、同法54条第1項として、破産債権者として、破産管財人に対し、損害賠償請求権を行使することができますが、その損害を敷金から当然に控除することができるかという問題があります。
そして、ここでも、『はい6民です』は、破産法第54条第1項についての伊藤教授の説を引用します。すなわち、破産法第54条第1項の損害賠償請求権は、本来的には破産管財人の解除権行使という行為によって生じたものであるから財団債権にすべきところ、財団債権にしたのでは財団の負担が過大となり破産管財人に特別の権能として同法第53条第1項の解除権を認めた趣旨が没却されるので、破産債権に格下げしたものだという理解にたち、「そうであるにもかかわらず、かかる損害賠償請求権につき、敷金からの当然控除を認めることは、実際上は賃貸人に財団債権としての行使を認めることと同じことになり、上記のような法の趣旨を没却することになりかねません。そうすると、破産法53条1項に基づく解除に伴う損害賠償請求権については、破産債権として配当によって満足を得ることのみが本来的に予定されており、敷金からの当然控除は認められないとの見解にも、相応の理由があるのではないかと思われます。」(150頁)と言うのです。
もっとも、さすがにここまで言うのは言い過ぎと思ったのか、続けて、「破産法54条1項の規定は、同法53条1項に基づく解除に伴う損害賠償請求権は破産手続においては破産債権として扱われる旨を規定したにすぎないものとみる余地もあり、そのような見地からは、破産法54条1項の存在ないしその趣旨のみによって直ちに敷金からの当然控除をも否定することは、解釈上は困難な面があると思われます。」(151頁)とフォローしています。
しかし、いずれにしても、『はい6民です』の解釈は、契約自由の原則への配慮を欠き、また、敷金の担保権としての性質についても見逃しており、大きなところで利益衡量を誤っていると思います。
実は、『はい6民です』が引用している伊藤教授も、この問題については『はい6民です。』とは異なる見解を述べています。すなわち、「解除に際して、賃貸借契約中の解約予告期間条項、敷金等放棄条項や違約金条項が破産管財人を拘束するかどうかについても議論があるが〔中略〕実体法上有効と認められる限り、破産管財人もその負担を受忍せざるをえず、これに拘束されると解すべきである(前掲東京地判平成20・8・18もその有効性を認めている。)」(伊藤眞著『破産法・民事再生法(第2版)』(2009年6月)287頁(注64)参照)と言うのです。
ちなみに、東京地裁の『破産管財の手引』がどう述べているかというと、「賃貸借契約上、解除ないし解約に際し、解約予告期間条項、敷金等放棄条項、違約金条項が設けられている場合があります。これらの条項の破産手続開始後の効力を巡っては、破産管財人が破産法53条1項に基づく解除権を行使する場合は適用されないとか、当該条項は公序良俗に反するなど様々な見解があり、下級審裁判例をみても事案に即した判断がされているようです。/基本的には、解約解釈の問題であり、当該条項自体が破産管財人には適用されない、あるいや適用範囲を限定的に解することも可能な事案もあると思われます。したがって、当該契約の目的・内容や賃貸借期間、賃料額、解除後の残存期間等の諸事情を考慮して、個別具体的に判断することになりますので、破産管財人としては、上記の事情を考慮しながら賃貸人と交渉し、円満に解決することが求められます。」(182頁)と書いています。
こちらは、ちょっと官僚的だなという感じがしますが、『はい6民です』のように決めつけた書き方でないところは評価できますね。
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藤原総一郎が書いた本
(ii)原状回復請求権の取扱い
賃貸借契約終了に際しての原状回復請求権(または賃貸人が賃借人に代わって原状回復を履行した場合の費用請求権)については、財団債権・共益債権になると解する見解55と倒産債権になると解する見解(ただし、この見解においても、原状回復請求権のうち、目的物明渡義務=目的物の占有を賃貸人に回復させる義務については、賃貸人に取戻権が認められること等を考慮して、財団債権・共益債権になると解するものが多い)56に分かれる。
財団債権・共益債権になると解する見解は、賃貸借契約の解除という賃借人の倒産管財人の行為に起因するものであることを重視して、原状回復請求権を財団債権・共益債権とすることによる負担を倒産債権者は受忍せざるを得ないと考える立場といえる(破148条1項4号または8号、民再119条2号または5号、会更127条2号または5号を根拠とするものが多い)。
これに対し、倒産債権になると解する見解は、倒産債務者によって現状変更が行われた時期が倒産手続開始前であるという事実、あるいは、原状回復義務の履行が倒産債権者全体の利益になるわけではなく、賃貸人のみの利益になるという実質を重視して、契約終了時期が倒産手続開始前である場合と同様に、倒産手続開始前の原因に基づいて生じた債権であるとして、倒産債権に過ぎないと考える立場といえる。
この問題は、賃貸借契約という日常的な契約にかかわる問題であるから、現実の倒産の場面において頻繁に争点になっている問題であり、また、とりわけ賃貸借の目的物がゴルフ場やリゾート施設であるような場合には、これらの義務の履行に要する金額が多額となりまた賃貸人の数も多数となることが多いため、賃貸人のこれらの権利を財団債権・共益債権として処遇するか否かは、倒産手続の遂行を左右するほどの影響を有する重要な問題である。
このように、この問題は現実的にも重大な問題であるが、上記の通り見解が対立しているうえ、破産実務においても東京地裁と大阪地裁の見解が異なる57など、いまだ決着をみていない。実務上は、和解により解決されることも多い58。
(iii)違約金条項の取扱い
賃貸借契約に期間の定めがあり、その期間内に賃借人が契約を解除したときは一定額の違約金を支払う旨の特約や敷金等を放棄する旨の特約がある場合、賃借人の倒産管財人が双方未履行双務契約に対する規律に従い契約を解除したときにも、当該特約の効力が肯定されるか否かについては、次の通り争いがある。
そもそも、当該特約の解釈問題として、双方未履行双務契約に対する規律に基づく解除の場合にも当該特約が適用されるのか否かが問題となり59、この場合にも適用される特約であると判断された場合、次に、当該特約の倒産手続における効力が問題となる。
当該特約の倒産手続における効力を肯定する立場60は、契約自由の原則を尊重し、賃借人について倒産手続が開始された後も当該特約の効力が否定される理由はないとする61。
他方、当該特約の倒産手続における効力を否定する立場62は、倒産法上の双方未履行双務契約に対する規律を尊重し、当該特約の効力を肯定すると、倒産管財人の履行または解除の選択権に対する不当な制約になり、また債権者平等も害するとする。
当該特約の効力を肯定する見解においても、当該特約に基づく賃貸人の違約金請求権は倒産債権になると解する見解が多い63が、倒産債権と解する立場に立ったとしても、賃貸人は、敷金による充当の限度で、これを実質的に回収することができると解される64。他方、当該特約の効力を否定する見解においても、賃借人の倒産管財人による解除によって賃貸人が損害を被った場合、双方未履行双務契約に対する規律に従い損害賠償請求権を破産債権として行使できると解されるが、賃貸人は、当該損害賠償請求権と敷金を充当処理することができるかについては、両論がある65。
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その他
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破産すると
会社に残った財産を債権者に分配する際、一番最初に持って行かれるのは「未納分の税金」です。大抵の事案は債権者には1円も渡りません。
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破綻懸念企業の事業移転
移転先企業が債務を引受けても、事業移転の対価を減額できない。したがって、債務は引受けず、移転元企業にのこすべき。仮に、事業継続上100%弁済が好ましい債務があったとしても移転すべきではなく、保証責任に留めるべき。
移転元企業への対価支払は、代理人弁護士に支払うか、法的整理後に支払うべき。
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法的整理開始後に事業を譲り受ける場合
法的整理開始後は、管財人の承諾さえ得られれば、否認リスクは遮断できる。
破産となった場合、事業は一時停止されるため、事業価値は毀損する。
しかし、在庫商品や知財などは、事業停止しても価値は毀損しないため、割安に取得できる。
ただし、事業移転先候補が清算価値保証原則を満たす対価を用意できない場合、破産に移行する。
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Netting 差引計算(相殺と払戻充当)
Mutual obligations settled among involved parties. Two involved parties is known as a bilateral netting. With three or more parties acting as a clearing house, it is known as a multilateral netting. With money involved, the net difference is carried forward, not the gross amounts. Foreign exchange trading, futures trading, and options trading are common activities in netting.
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Netting 差引計算 (相殺と払戻充当)
1 期限の到来、期限の利益の喪失、買戻債務の発生、求償債務の発生その他の事由によって甲が乙に対する債務を弁済しなければならない場合には、乙は、その債務と甲の預金、定期積金その他の債権とを、その債権の期限のいかんにかかわらず、いつでも相殺することができます。
2 第1項の相殺ができる場合には、乙は、事前の通知および所定の手続を省略し、甲に代わり諸預け金の払戻しを受け、債務の弁済に充当することもできます。この場合、乙は甲に対して充当した結果を通知します。
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ISDA(International Swap Dealers Association) Master AgreementにおけるNetting
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Payment netting 平時差引計算(第2条第c項第1文)
平常取引において履行期が到来した債権債務の相殺を意味する。
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Close-out Netting 破綻時差引計算(第6条)
期限の利益喪失事由が存する場面における一括清算
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Obligation Netting 期限前差引計算
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保証金(敷金)差入先の破産から保証金(敷金)を守る
我が社は、準ゼネコンのY社から、Y社所有のビルの3階を借りて、名古屋支店を置いています(賃料月30万円)。
この度、Y社が破産するという弁護士からの通知がありました。
たまたま、我が社は、通知があった半年後にこのビルを退去することになっていたのですが、保証金を300万円ほどいれています。
保証金は戻ってくるのでしょうか。
また、保証金が戻ってこないとすると、半年間の賃料を払うのもバカバカしいのですが、何とかならないのでしょうか。
3つのシナリオ
弁護士 今回の保証金の話ですが、場合を分けてご説明する必要があります。
①最悪のシナリオ~退去前にビルが売れず、かつ何らの法的な対処もしない場合です。
②最善のシナリオ~退去前にビルが売れた場合です。
③次善のシナリオ~退去前にビルが売れなくとも、法的な対処をすることで①を避ける場合です。
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①最悪のシナリオ
弁護士 まず、何もせず、しかも、ビルが第三者に任意売却されることもなく、御社がビルを退去することになった場合、御社の保証金は殆ど戻ってこなくなります。
課長 破産の通知が来ても誠実に家賃を払っている我々にとっては、あまりにむごい仕打ちではありませんか?
弁護士 そうですよね。しかし、保証金返還請求権を特別扱いしたら、他の債権者からはどうして?と疑問が出るでしょうね。
課長 なるほど。他の債権者も低い配当となるのですからしょうがない、ということですか。
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②最善のシナリオ~棚からボタ餅
運良く御社が退去する前にビルが任意売却されると、保証金は全額戻ってくることになります。
弁護士 実は、保証金返還請求権は、賃貸借契約にお供をする権利なのです。したがって、御社の退去前にビルが任意売却されると、買った第三者に御社との賃貸借契約が引き継がれますが、保証金返還請求権もこれにお供して引き継がれますから、その第三者が払う必要が出てきます。
弁護士 賃借人の立場で言ったら当然のことですよね。保証金が新しいオーナーに引き継がれないとしたら、賃借人の関係の無いところで、保証金を回収できなくなってしまいますから。他方、新オーナーは、買うときに、いくら保証金を返せばいいか、預かっている保証金額を旧オーナーに尋ねることができますから、不合理ではありません。
しかし、それでは運任せになりますよね。
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③次善のシナリオ~寄託請求
御社が何も手を打たずに、放置しておくと、賃料は退去までしっかり払わされるわ、保証金は殆ど戻ってこないわ、ひどい結果となります。そこで、「寄託請求」をして頂くと良いです。要するに、「これから納める賃料を預かっておいて下さいね。退去するときに、保証金額を上限として、納めた賃料分を返してもらいますよ。」という制度です。破産法70条に規定されています。
我が社のケースでは、保証金全額は戻ってこないとしても、これから払う30万円の賃料の半年分を確実に返してもらえる、ということでしょうか。
弁護士 その通りです。寄託請求の理屈を簡単に説明しましょう。賃貸借契約が終わり、借りていたものを返す際、未払賃料があったら保証金に当然に充当されます。寄託請求をすると、寄託された賃料は毎月の賃料に充当されなかったことになります。寄託請求しておかないと、毎月払うお金は毎月の賃料に充てられたことになり、保証金から差し引くべき未払賃料が存在しないことになります。