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訴訟弁護士として活躍するためのポイント

弁護士の中には、法廷に立たない者もいます。たとえば、ほんの数年前までは、M&Aやファイナンスなどの取引をサポートする弁護士は裁判所に行かない、というのが常識でした。そして、企業法務を扱う法律事務所の弁護士が訴訟に関与するのは、消費者等から提起された訴えへの防戦が中心と見なされていました。
しかし、近年の「敵対的買収」をめぐる一連の騒動で、この認識は変わりつつあります。歴史ある企業VS買収者(ファンド・新興企業)という対立構造の紛争は、法廷に持ち込んで決着を付ける、という機運が高まっています。そして、M&Aが裁判手続きと密接なかかわりを持つ仕事として認識されるようになりました。結果的に、「訴訟弁護士」への注目も高まっています。

訴訟弁護士としての腕を磨くためには、どうすればいいのでしょうか。これについても「依頼者がだれか」というのが重要なポイントになります。上場企業を代理する、オーナー企業を代理する、個人を代理する、もしくは一定の被害者集団を代理する、様々な場合が考えられます。その違いが、どのような作業にどの程度の時間をかけるか、という訴訟弁護士の活動に大きな影響を与えます。

一般論からすれば、上場企業はタイムチャージで弁護士報酬を支払うことになれています。タイムチャージで訴訟での被告代理人の事件を受任すれば、弁護士としては、法令・判例の調査に時間をかけることができるでしょう。事実調査のために関係者のヒアリングなどに十分な時間をかける事もできます。そして、綿密な調査に裏付けされた書面を丁寧にまとめることが許されます。証人尋問にも万全を期すことができるでしょう。
大手法律事務所に入所して、上場企業を依頼者とする訴訟事件の経験を積むこと、それは丁寧な仕事をする能力を磨くチャンスが与えられることを意味します。

これに対して、オーナー企業にはタイムチャージで弁護士報酬を支払うことになれているところはあまりありません。個人依頼者に至っては、タイムチャージを嗜好するものはさらに少ないでしょう。これは「弁護士の仕事」に対して求められるものの違いを反映しています。
彼らは「いかに要件事実が整理されて、理論だった答弁書や準備をしたか」で弁護士を評価するわけではありません。彼らが求めているのは「結果」であり、「プロセス」は重視しないのです。

では、「タイムチャージになじまない」とか「結果を求める」という依頼者の属性が、代理弁護士の訴訟活動にどのような影響を与えるのでしょうか。
簡単にいってしまえば「できるだけ時間をかけず、結果を出す」「面造な作業は全て相手方代理人に押し付ける」というような考え方をするようになるでしょう。丁寧な仕事をしても評価にはつながらず、結果さえ出せばそれだけで感謝され評価されるのですから。結果的に「雑な仕事」が増えてしまう場合もあります。

丁寧な仕事をする訓練をつみたいのであれば、大手法律事務所の訴訟部門に所属し、上場企業やファンドを代理して訴訟を経験するのがいいでしょう。しかし、だからといって大手法律事務所の訴訟弁護士は、中小法律事務所の訴訟弁護士より優れている、とは言えません。
大手法律事務所で大企業の代理人として働くことは、サラリーマン的な安定した職場環境になじんでしまい、勝つことへの執念や依頼者の熱意を感じられなくなってしまう懸念もあります。それは、弁護士としてのキバを抜かれ、去勢された状態とも言えるでしょう。このような状態になると、相手方の代理人から一目置かれるような訴訟活動は行えません。

裁判官は多数の同種案件をこなすプロです。その裁判官が「判決を書きやすい」ように主張を展開することは訴訟弁護士胃としての重要な技術の1つでしょう。しかし、依頼者との関係が希薄になり、訴訟弁護士の頭から「依頼者が何を求めているか」が抜け落ちて、裁判官への心証だけを良くすることを追及してしまうと「事故の依頼者に不利な結果を導くような裁判官の誘導に載ってしまう」危険が増幅します。裁判官の心証は極めて重要ですが、「裁判官の言葉」よりも先に「依頼者の言葉」に耳を傾けなくてはいけません。
もし、裁判官から事故の依頼者の利益を損なうような誘導を受けても、その誘導に乗らず「裁判官の言うことを聞かないと、本当に依頼者が負ける判決が下されるのか」を徹底的に自らに問いかけてみなくてはいけません。
「訴訟弁護士としての腕を磨きたい」と希望するならば、目当ての法律事務所において「去勢された訴訟弁護士しかいないようなことはないか」を確認してみるのがいいいでしょう。

法律事務所の経営構造という点から見れば、その事務所で訴訟弁護士がどのような位置づけにあるか、という事実にも目を向けてみるといいでしょう。ほんの少し前までは、訴訟は一般民事の弁護士ですらできる仕事であり、予防法務よりも格が低い仕事、とする差別意識が存在しました。中には、予防法務を担当するだけのセンスと知識がない者が訴訟部門に回されたり、英語のできない弁護士を訴訟部門に回す、というような法律事務所までありました。
しかし、近年のM&Aの法廷闘争によってこのような風潮も払しょくされつつあり、むしろ訴訟弁護士にこそ真の英語力が求められるというニーズも認められはじめています。
ファイナンス取引派欧米のスキームをベースとする事が多いため、実は専門用語さえ覚えてしまえば外国人への説明も比較的スムーズに行えます。しかし、訴訟手続きとなるとそうはいきません。日本の訴訟手続きは日本固有のものです。これを外国人に理解させるには、基本的な制度の仕組みに立ち返って説明を尽くさなくてはいけません。専門用語を多用すれば相手に伝わるという性質のものでもありません。外国人を依頼者とする時、訴訟弁護士は、問題点を自分の頭で整理し日本の訴訟の仕組みを紐解いて、自分の言葉で語る能力が求められます。

歴史的に見れば、訴訟弁護士は純粋な国内事件を担当する事が多かったでしょう。したがって、企業法務を扱う法律事務所においても「英語でコミュニケーションのとれる訴訟弁護士」の数は多くありません。訴訟対応はビジネスのリスク管理としても不可欠のものとして組み込まれてきています。「英語ができる訴訟弁護士」のニーズは、これから先高まり続けるでしょう。

訴訟弁護士に対する定性的なマイナスイメージがなくなってきており、法律事務所内での訴訟弁護士の位置づけも、他の企業法務弁護士と同列の基準で論じられるようになっています。つまり、法律事務所内における発言力を決める要因は「売上」による度合いが大きくなってきます。
では、訴訟弁護士は果たしてどの程度儲かるのでしょうか。弁護士の報酬体系を念頭に置いて考えてみましょう。

巨額な訴訟が増えれば、訴額をベースに算定される着手金と成功報酬は膨れ上がります。訴訟準備に大量の作業を要する複雑な事件が増えれば、稼働時間をベースに算定されるタイムチャージの弁護士報酬は膨れ上がるでしょう。アメリカのような広範囲なディスカバリーの制度を持たない日本においては、限られた期間内に大量の弁護士を動員して訴訟準備を行うという慣習はありません。ただ、司法制度改革の一環としての「裁判手続きの迅速化」の要請は、多数の弁護士の関与を促す要因にはなりうるでしょう。

弁護士が増えれば訴訟が増える、という理屈も弁護士の就職問題が顕在化するにつれてまことしやかに語られるようになってきました。たしかに、ロースクールと司法研修所を出たからといって、それだけで企業法務の仕事ができるわけではありません。そんな弁護士に仕事を頼む企業もいないでしょう。
一人前の企業法務弁護士になるためには、法律事務所または企業に入って、先輩の指導を受けながらOJTを受ける事は不可欠です。

これに対して「どうすれば訴えを提起できるか?」は、誰もがこれを司法研修所で学んでから弁護士バッチを手にします。弁護士自身が「報酬欲しさ」に積極的に訴訟の提起を促す、それも十分に考えられることでしょう。とすれば、これに防戦する側にも訴訟弁護士が必要になります。
ここで求められるのは和解で事を穏便に済ませる弁護士ではなく、理不尽な主張を還付なくまでに叩き潰すことのできる弁護士です。これを「健全なリーガルマーケットの発展」と呼ぶのには抵抗があるかもしれませんが、強い訴訟弁護士へのニーズが高まってくることは確実でしょう。

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