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弁護士を志す理由

大手法律事務所は忙しく、残業や土日出勤も当たり前。そんな認識を持つ人も少なくないでしょう。実際に深夜2時にメールの返信があった、などという話も多いようです。
司法試験を受験した後の就職活動においても「仕事を優先するか、プライベートを優先するか」というのは大きなテーマとなります。そして一般的には「大手の法律事務所は忙しいのでプライベートを犠牲にしないといけない」とみられています。だから「個人で事務所をやっている法律事務所の方が楽」とか「企業内弁護士なら労働法の保護が受けられる」という見方をする新人弁護士も少なくないようです。

仕事とプライベートのどちらを優先するか、これは弁護士の数が急増するという時代背景も受けて、「仕事で競争に勝ち抜くこと」と「プライベートも含めた意味での生活の質を高めること」を両立させるための時間配分は極めて難しい問題でしょう。
もちろんITを活用した工夫は続けられています。自宅から事務所のサーバーへモローとアクセスしたり、携帯からメールを送受信することも可能でしょう。物理的に「職場にいる」という必要性を減らす環境を整えるということは、逆を言えば、職場を離れても仕事に縛られる、という精神的な圧力にもなりかねません。忙しい職場を選択するかどうかは、依然として大きな問題でしょう。

ひとえにプライベートの時間を優先したいといっても、その内容は個人こじんで違います。就職しても土日は友達と遊びたい、という直近のニーズもあります。このニーズを満たすためには、新人弁護士は毎日何時ころにかえるのか、土日の出勤がどの程度あるのか、ということを具体的に確認して就職先を決めなくてはいけません。
しかし、プライベートを重視したいというニーズの中には、直近の物ではなく「子供が生まれたら、家族と共に過ごす時間を増やしたい」というような奨励的なニーズもあります。このようなニーズを抱える人が「キャリアを犠牲にするつもりはない」と願うなら、戦略的にキャリアを考える必要があるでしょう。

「会社に入る」という選択をすると、当面は労働法上の保護を受けられるポジションにつきます。しかし、会社組織の場合、昇進して管理職になるほど忙しさが増す、と考えるべきでしょう。多くのスタッフや部署を抱えるようになるほどに、「自分の時間」を自分で使う事は難しくなります。「他人の集う」を優先して自分のスケジュールが決定されていきます。もちろん、夜は一切仕事の会合を入れない、土日は仕事のアポイント入れない、と宣言する手もあります。しかし、相手方の都合によっては平日の日中では約束が入らない事もあります。そうすると、先ほどのような宣言は就業時間外に合えない人とは仕事をしない、という意思表明をするのと同義ではないでしょうか。

将来的に独立を考える場合でも同様のことがいえます。独立してしまえば、会社員以上に自分の時間配分を決めるのは容易でしょう。しかし、そうなると自分の仕事の範囲を狭めることにもなりかねません。そのような殿様商売をしてもやっていくだけの魅力ある仕事を提供できるかは難しい問題でしょう。

弁護士は急な仕事を依頼される事が多いです。一流の法律事務所であっても、それは避けられません。ビジネスの最先端で活動する依頼者はたくさんのプロジェクトを抱えています。主要なプロジェクトは株価への影響もあり、来るべきプレスリリースの日までは秘密裏に勧められます。彼らとしては、法律事務所でさえも情報開示を避けたいと感じるかもしれませんし、はっきりとしたことがわかるまでは報告を遅らせるかもしれません。
だから、法律事務所へ報告がされた時にはいつも「急ぎの仕事」ということになります。

また、企業会計士が決算があるため、決算を視野に入れた取引は「締め切り」に融通が利きません。締め切りを守れなくては、企業の決算に影響が出てしまいます。法律上の論点を詰め切れていない、という理由では安易にスケジュールを後ろ倒しにすることはできません。
もっとも、このような緊急性は、訴訟を中心に活動している弁護士については、ある程度は緩和されるかもしれません。依頼者から訴訟を提起されましたと言われても答弁書の提出までに1か月程度の時間は確保できます。その後の期日もその都度裁判所で指定されるため、ある程度、将来のスケジュールを予期しながら、仕事を進めていくことは可能でしょう。
しかし、それでも仮処分や仮差押えの対応が依頼されれば、あわただしく準備を勧めなくてはいけません。

いずれにせよ、たくさんの依頼者を抱えてその顧客対応のフロントに立ちながら「自分のスケジュールを自分の都合ですべて管理したい」という希望を叶えるのは至難の業でしょう。弁護士から見れば目の前の依頼者はたくさんの依頼者のうちの1人でも、依頼者からしてみれば、ただ1人の信頼できる弁護士なのです。仮に、弁護士が前夜に徹夜の作業で疲弊していたとしても別件の依頼者からすれば何も関係のないのです。
だからこそ、自分で時間を調整できるようにしたいのであれば、依頼者とのフロントに立つことを諦めたほうが無難でしょう。つまり、他の弁護士に「依頼者対応」をすべて任せて、自分は他の弁護士からの事件の下請けに専念する、という手法です。依頼者とは無理でも、同僚弁護士であればスケジュールの融通をきかせられるような関係を築くのは不可能ではありません。

もしこのような「下請け弁護士」を目指すのであれば、2つのリスクを負わなくてはいけません。1つは「元請けの弁護士の確保」です。自分で仕事を取ってこない下請け弁護士は、営業窓口である元請け弁護士がきちんと仕事を取ってこなければ仕事は貰えません。元請け弁護士と共倒れになってしまわないよう、できるだけ良質の依頼者から良質な事件を持ってきてくれる信頼のできる業者を選ぶべきでしょう。

もう1つのリスクは「元請け弁護士がいつまで自分に仕事をまわし続けてくれるか」という問題です。元請け弁護士が他の弁護士からも信頼されているような存在の場合、そこにはほかにも多数の弁護士が参集していると考えるべきでしょう。そこでは「下請け競争」ともいうべきものが発生します。
誰でも出来るような仕事であれば「より安い下請け業者」へと発注されます。安さを売りに仕事をしていれば、そのうち新人弁護士に仕事を奪われてしまうでしょう。だからこそ「価格」ではなく「この依頼はこの弁護士にしか頼めない」と思われるだけの、他の弁護士では替えのきかない弁護士にならなくてはいけません。ようは1つの分野においてのスペシャリストになるということでしょう。特定の法分野についての卓越した知識・経験とセンスを身に付ければ、元請け弁護士から頼りにされて、仕事をまわしてもらえます。
ここでいう元請け弁護士は、個人だけではなく法律事務所も含みます。昨今では、大手法律事務所を中心として、パートナーとアソシエイト以外の肩書で弁護士を抱えるケースが増えています。そのポジションにはカウンセルやオブ・カウンセル、スペシャルカウンセルなどが用いられます。これらの肩書の弁護士は、ある意味では「法律事務所に対するアドバイザー的な存在です。依頼者との接点をパートナーに任せて、自分たちは特定の法分野に対する知見の集積に特化した役割を担う弁護士です。
もっとも、誰もがこのようなアドバイザー的地位につくことができるわけではありません。このようなアドバイザーのお客さんは、法律事務所のパートナーたる弁護士たちです。彼ら弁護士から「この分野についてのこの人の意見が必要」として一目を置かれるだけの知見を備えていなくてはいけません。法律事務所の収支構造から見ても、このようなアドバイザー枠を過剰に設けることはコスト増につながってしまいます。だからこそ、「パートナー枠をめぐる競争」が存在しているのと同様に、今後は「この法分野についてのスペシャリスト枠につくための競争」という形で、アドバイザー的ポジションをめぐる競争も激化してくるでしょう。

以上のことを踏まえて、就職先の選択を考えるにあたって、将来的に自分のスケジュールを優先出来るような働き方をしたい、というニーズを叶えるためには「スペシャリスト弁護士」としての地位を確立することが有効と思われます。
そのためには、当面はプライベートの時間を犠牲にしてでも、専門分野についての知識と経験の集積にはげみ、ほかの弁護士に負けないようにする、ということが必要になってきます。

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