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世界共通の違反要件論

世界共通の違反要件論

 

行為要件

次のいずれかに該当する行為を行い、

①競争停止行為

②他社排除行為

③搾取行為

弊害要件

1 ある市場において

2 反競争性(市場支配的状態の形成・維持・強化)をもたらし、

3 正当化理由がないこと

 

 

 

不正手段型行為

それ以外

 

当該行為がおこなわれれば正当化理由のない限り直ちに公正競争阻害性を満たす

当該行為がおこなわれても正当化理由がない場合であっても、反競争性が認定されてはじめて公正競争阻害性を満たす

     

 

 

弊害要件:「競争の実質的制限」「公正競争阻害性」

弊害要件①:市場

市場とは、2条4項にいう「競争」がおこなわれる場、である。

市場とは、需要者と、当該需要者に同一の商品役務を供給しようとする供給者とで構成される場、である。

①需要者の範囲の画定

②供給者の範囲の画定

③需要者にとっての代替性。

SSNIPテスト(Small but Significant and Nontransitory Increase in Price)

商品役務αを供給するすべての供給者が5%の値上げ(SSNIP)をおこなったと仮定した場合、

(A)値上げしても供給者らの利益が減少しないならば、需要者が他に選択肢をもっていないと考えてαだけで市場を画定する。

(B)値上げにより供給者らの利益が減少するならば、需要者が他に選択肢をもっていると考えて、今度は商品役務αにβを加えた「α+β」について同様の作業を繰り返す。

弊害要件②:反競争性

反競争性とは、市場支配的状態の形成・維持・強化、である。

反競争性の判断基準は、競争停止行為、特に企業結合の場面で10条や15条の「競争の実質的制限」の解釈適用において発達してきた(従って競争停止における反競争性を原則論と呼ぶ)。例えば、ガス用ポリエチレン管、JALJAS企業結合などがある。

 

反競争性の議論の位置付け

反競争性の議論は、①どのような場合に反競争性があるのか、②競争の実質的制限と公正競争阻害性とでは違うのか、③違うとすればどう違うか?

の、反競争性の基準は?

 

他者排除の要素も優越的地位濫用の要素もない場合

他者排除の要素がある場合

優越的地位濫用の要素がある場合

       
       

 

 

競争の実質的制限

公正競争阻害性

条文の文言

「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」

「公正な競争を阻害するおそれ」

日本の独禁法の規定

私的独占(2条5項)

不当な取引制限(2条6項)

事業者団体規制(8条1号)

企業結合規制(10条、13条~16条)

不公正な取引方法(2条9項)

 一般指定12項

 一般指定13項のうちの競争停止

競争変数が左右されうる状態がもたらされることの要否

必要(原則論貫徹説)

不要(他者排除重視説)

 

他者排除の要素がある場合における原則論の修正の要否

競争変数が左右され得る状態がもたらされることの要否、という問題。

他者排除の場合、競争への参加機会が奪われたことそれ自体を捕らえて反競争性がある、とする見解もある。この見解によれば、競争変数が左右され得る状態がもたらされることまでは必要ではない。

なお、略奪廉売規制において、埋め合わせ(recoup)可能性を違反要件として加重すべきか、という論点がある。埋め合わせ可能性とは、競争変数が左右され得る可能性であるから、

 

競争の実質的制限の場合は、原則論貫徹説(競争変数が左右され得る状態がもたらされることが必要)。

公正競争阻害性の場合は、「おそれ」という文言があるので、他者排除重視説(競争変数が左右され得る状態がもたらされることは不要)

 

弊害要件③:正当化理由

目的の正当性と手段の合理性により判断する。

不適格な事業者や商品役務の排除

知的創作や努力のインセンティブ確保

安全性確保のための業界自主基準であっても、恣意的な運用により特定業者が不利益を受けている場合には正当化理由はない(東京地判平成9年4月9日、日本遊戯銃協同組合)

因果関係

 

不正手段

競争は競争変数をありのままに伝えることを前提とする。従って、その前提を崩す行為は反競争性ある「不正手段」として規制される。

また、反競争性がないが、競争という観点から法的に問題となりうる行為は、不正競争防止法の不正競争として規制される。

独禁法の不公正な取引方法(2条9項3号、6号)、

 

行為要件

行為類型まとめ

 

競争停止行為(Collusion)

他社排除

搾取

企業結合規制

 

供給者らが合意して競争を停止すること(価格協定)

(入札談合)

他の供給者を排除して競争を避けること

取引拒絶と略奪廉売がある。

単独の者が取引の相手方から搾取する行為

 

要件

       

反競争性

競争変数が左右されうる状態

     
 

ガス用ポリエチレン管を供給する三井化学、三菱樹脂、日立金属などの各社がそろって値上げに合意した(ガス用ポリエチレン管命令)

JALJAS結合

三菱電機ビルテクノサービス審決

三井住友銀行審決

 

 

行為類型①:競争停止行為(Collusion)

 

競争者同士の共同行為

競争者同士の共同行為とはいえないもの

要件

①他の事業者と共同して(意思の連絡)

 
 

独禁法2条6項の不当取引制限とほぼ一致

 

Enforcement

排除措置命令、課徴金納付命令、刑罰など

緩い。刑罰の対象ではない。

代表例

価格協定や入札談合

メーカーが販売店の小売価格を拘束すること(再販売価格拘束)

取引相手方の販売地域を拘束すること(テリトリー制)

 

行為類型②:他社排除行為

 

取引拒絶

略奪廉売

 

取引しない自由

価格設定の自由

 

取引拒絶

なお、抱き合わせ販売は取引拒絶の一種(従たる商品役務と一緒でなければ主たる商品役務を販売しない)。

楽曲使用料を一律にして放送事業者が他の著作権管理事業者の楽曲を使う気を失わせることも、取引拒絶の一種(公取委命令平成21年2月27日、JASRAC)

略奪廉売の基準

略奪廉売認定の際の基準費用には、以下の二つの基準がある。

 

Average Avoidable Cost

Average Total Cost

 

商品を供給しなければ発生しない費用

平均総費用

 

製造原価や仕入原価、運送・保管費

総費用÷商品役務の個数

三菱電機ビルテクノサービス

 

他者排除の諸問題

エッセンシャルファシリティ理論

ある市場での競争に必須の商品役務を独占する者は当該商品役務を合理的且つ非差別的な条件(RAND条件)で供給しなければ独禁法違反となる、という考え方。

萎縮効果の勘案

特定の者に不利益を与えている事実が、他の供給者の新規参入を萎縮させて、他者排除がもたらされる。

並行的行為の累積による他者排除

単独では独占的に支配していなくても、それについて差別的取り扱いが問題となる場合がある。

他者排除の意図の要否

 

市場シェアや市場集中度との関係

検討対象市場での市場シェアや市場集中度が高くなくても他者排除を起こすことができる。例えば、川上市場で市場シェアが高ければ川下市場で取引拒絶等の差別的取り扱いをすることができる。

 

 

行為類型③:搾取行為(優越的地位濫用)

 

「競争変数が左右され得る状態」が存在しても単独の供給者による場合、それ自体は禁止されない。しかし、取引相手に対する濫用があれば弊害要件を満たす。

 

搾取行為の行為要件

搾取行為の行為要件は、弊害要件の「濫用」の枠内で議論されるため、独立に論じる必要性がない。

日本の独禁法では、搾取行為類型が法令に列挙されているものの包括的一般条項が規定されているため、どの類型に分類されるかはさほど意味がない。

搾取の弊害要件

搾取の弊害要件は、①正当化理由なく②優越的地位を③濫用すること。

②優越的地位の判断基準は「取引必要性」。

三井住友銀行からしか融資を受けられないような中小企業(公取委勧告審決平成17年12月26日、三井住友銀行)

セブンイレブンとの取引の継続が必要な中小小売業者(公取委命令平成21年6月22日、セブンイレブン)

③「濫用」の判断は、相手が負うべき合理的理由がない負担を相手方に負わせているか否か。

 

行為類型④:企業結合行為

企業結合行為は、行為要件充足行為が先にあり、後に弊害が発生する点に特徴がある。

企業結合行為の判断は、弊害原因行為が行われやすくなるか、を基準に行われる。①株式取得や②役員兼任等による議決権取得による意思決定支配など。

 

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